「冗談ぽく言ってたけど、でも……、そのあとね? 『それに、日向には感謝しきれないくらい、救われましたから』って……。日向、彼になにかしたの?」
 救われた?
 あたし、なんにもしてないのに。
 あたしは、彼になにか特別なことをしてあげたことはないし、それよりあたしのほうがたくさん救われてるもん。
 正直、よく意味が分からない。
 あ……、でも。
『そのお前の歌は、ちゃんと誰かを勇気づけている』
 三条くんの、あの言葉。
 もしかしてあれって……。
 ゆらっとした窓の外の街路灯。
 言葉が出ない。
「お母さん、とっても嬉しい。あんな素敵な男の子が日向のことを好きになってくれて。でもね? お母さんは、彼の人生までこの農園に縛りつけたくない」
 ちょっと震えた、お母さんの唇。
「お母さんは、三条さんにも日向にも、農園なんて関係なく、素敵な恋をしてもらいたい」
 分かってるよ? お母さんの気持ち。
 これは、三条くんをお父さんみたいにしたくないってこと。
 実は、お父さんは養子だった。
 お母さんは、宝満養鶏場のひとり娘。
 お父さんとは高校の合唱部で出会ったらしい。
 お父さんのほうが、お母さんより一年先輩。あたしと三条くんと同じ。
 お母さんが高校を卒業するちょっと前に、お母さんのお父さんが病気で亡くなってしまって、お父さんはそれから養鶏場の手伝いをするようになったって。
 そして、お父さんは大学を中退して、お母さんと結婚して養鶏場を継いだらしい。
 お父さんは、本当にお母さんのことが好きだったんだと思う。
 でも、イチゴ農園に切り替えたことで、歯車が狂ってしまった。
 ぜんぶ、あたしのせい。