「お父さん、写真撮るからお母さんと並んで」
舞花は僕たちの写真ばかり撮って、自分の写真を撮ろうとしなかった。
僕は言われるがまま、歩美の隣に立つ。
そんな僕たちの目の前で、舞花はカメラを構える。
その姿もすっかり様になっている。
ただ、舞花はシャッターを切るのにいつも時間がかかっていた。
それは何も、僕たちを撮る時だけじゃない。
風景や建物を撮るときなんかも、レンズや画面を覗き込んだままなかなか動かない。
ただ、カメラの画面を見る目は確かに輝いていた。
だから僕たちも、文句ひとつ言わず、舞花のこだわりに付き合った。
ただこだわるのは結構だけど、被写体の身にもなってほしい。
周りからの視線も気になるし、ずっと同じ表情でいるのもキツイ。
食べ物に関して言えば、舞花が撮り終わるまでお預けを食らう。
それなのに舞花は、決まって失敗をした。
そして何枚も何枚も、納得がいくまで撮り続ける。
僕たちはそれを呆れ顔をしながらも、ひたすら待った。
昔なら、ありえなかった。
舞花を待つなんて。