僕たちが来たのは、ここに住んでいた頃よく行っていたファミレスだ。
どこにでもあるチェーン店で、今住んでいる町にも同じ店があって、今はそちらが行きつけのファミレスだ。
店のつくりも内装もメニューもすべて同じなはずなのに、店内に入ったとたん、不思議と安心感があった。
何だろう、このほっとする感じ。
店内を見渡すと、今も見慣れた光景のはずなのに心地よく感じる。
鼻をくすぐる匂いも昔と変わらない。
僕たちはそれぞれ冷たい飲み物を頼むと、歩美は早速あおい君に話しかける。
「あおい君は、バスケ部なの?」
「はい。小一の頃からバスケやってて」
__小一の頃からバスケ……。
そう言えば、舞花も小一の頃、バスケがしたいと言っていたことを思いだした。
だけど僕たちは却下した。
舞花がやってみたいと言った習い事は他にもたくさんあるけど、このバスケのことだけはよく覚えている。
なぜなら、珍しく舞花が引き下がらなかったからだ。
いつもは「ダメだ」と言ったらすんなり諦めるのに。
習い事を一週間ボイコットして、僕たちを手こずらせた。
あんな舞花は後にも先にもない。
それでも僕たちは、舞花にバスケをやらせなかった。
その頃他の習い事で手いっぱいだったし、やらせたい習い事は他にもあった。
バスケットなんて、優先順位が低かった。
スポーツの習い事には興味はあったけど、僕はバスケだけは気乗りしなかった。
それは……
「うちのお父さんも、昔ちょっとバスケやってたのよ。ねえ?」
「う、うん。まあ」
歩美がいきなり僕に話を振ってきて、僕は微妙な返事を返す。
「そうだったんですね」
そう言って、僕との共通点を見つけたあおい君は、キラキラした目を僕に向けてくる。
僕はその目を避けた。
やっていたけど、バスケにいい思い出はない。