年少に上がる頃には、舞花は朝の登園時に泣かなくなった。

 むしろ僕なんかよりもしっかりと自分の身支度をこなして、スマートに教室に自ら入っていく。

 先生やすれ違うどこかの母親とも事も無げにあいさつする。

 どちらかというと、僕の方がいつまでも緊張してかしこまっていたぐらいだ。
 
 帰りはたいてい義両親が迎えに行ってくれるんだけど、できるときは自分たちでしようと決めていた。

 だけど僕にはその役目がちょっと憂鬱だった。

 舞花はその日あった出来事を話してくれる。

 友達の名前、新しい遊び、お絵かきや絵本の話。

 舞花の頭の中で想像される、どこにもない世界の話。

 仕事で疲れた脳に、前後も脈略も意味もない、永遠に続きそうな舞花の話に付き合うのは正直きつかった。

 僕はいつもそんな舞花の一日の話を聞き流すように車を運転していた。

 返す相づちにも力が入らず、生返事で済ませることがほとんどだった。

 そんな僕だけど、その名前だけはちゃんと覚えていた。

 だってその名前は、毎日のように舞花の話に出てくるのだから。