そして今、僕たちの目の前には500万円がある。

 「舞花の将来のためのお金」をかき集めたものだ。

 100万円の札束が5冊山積みにされているのを前に、僕の喉元がごくりと鳴った。

 銀行で働く僕は毎日のように札束を扱っているけど、いざ目の前に、しかも自宅のダイニングテーブルの上に置かれているのを前にすると、その光景は非現実的で、仕事で扱う時とは感覚が違った。

 他人のお金じゃない。

 これは、我が家のお金だからだ。

 いや、違う。

 これは、舞花のお金だ。

 僕たちが舞花のために貯めてきたお金。

 その500万円を、僕は舞花の前にすっと差し出した。


「舞花の好きに使っていいよ」


 そう言う僕に、舞花はきょとんとした目を向けた。

 くりくりとした瞳の中には、「?」マークが浮かんでいる。
 
 当然だろう。

 500万円なんて大金、小学六年生舞花の手には有り余る。

 「好きに使え」と言われても、そりゃあ呆然となる。

 目の前にしている僕ら大人だって、その使い道をすぐには思い浮かばない。

 ただ震えそうになる手を抑えるのが、精一杯なのだから。