習い事の送り迎えであくせくしていた歩美にも時間に余裕ができて、舞花が友達と遊びに行っている間にゆっくりと家事をこなしたり、机に向かって書き物をしたり、内職をすることもあった。
ある夜、舞花が寝静まってからのことだった。
僕がテレビを見る傍らで歩美が机にノートと何枚もの紙を広げて作業をしていた。
海のように広がる紙の中に両肘をついて、通帳を確認している。
「習い事にこんなにお金かかってたんだ」
通帳を眺めながら、歩美は力なく笑って言った。
「もったいないな」
そう放たれた言葉には、寂しさが滲み出ていた。
__「もったいないな」
それは、どういう意味なんだろう。
今までこんなに習い事を頑張って続けてきたのに、全てやめるなんて「もったいない」ということだろうか。
それとも、習い事にこんなにお金をかけたことが「もったいない」ということだろうか。
歩美の表情からはどちらともとれるような気がしたし、どちらも違うような気もした。
だけど一つだけわかるのは、何かから解放されたような安堵の気持ちがそこに混ざっていること。
その気持ちは、なぜか僕も同じだった。
実際、僕たちも限界だったんだ。
仕事や家事を抱えながらする送迎も、舞花の習い事の費用の捻出も、僕たちの厳しい言いつけをきっちり守って頑張る舞花の姿を見るのも。
舞花を解放することで、同時に、僕たちもいろんなことから解放されたような気がした。
だから全ての習い事をやめたとき、僕たちはほっとした。