だから僕たちは、スマホを置いた。

 食事の時間だけじゃなく、舞花と一緒にいる時間はずっと。


 僕はゲームアプリをすべて消したし、歩美はSNSを閉鎖した。

 それぐらいしないと、僕たちの一日の忙しさは半分にもならない。

 つまり、僕たちの忙しさの半分は、スマホに支配されていたということだ。
 

 歩美は仕事をやめ、僕は転職をした。
 
 金を数えることしかできない銀行員の僕だったけど、舞花との時間を増やすために、しがみつく思いで仕事を探した。

 完全に職種が変わって、収入もぐんと下がった。

 だけど仕事はきっちり定時に終われて、家からも近く、月に何回かは在宅勤務ができる仕事を見つけた。
 
 そして僕たちはひとつ残らず聞くことにした。

 舞花の、小さいけれど、大きな願いを。


 以前と変わらず今すぐできないこともあった。

 そんなときは約束をした。

 「次の休みにね」と言ったら、次の休みに。

 「また後でね。これが終わったらすぐだから」と約束したら、その作業が終わり次第きっちりと。

 時には家事代行サービスを利用することもあった。

 歩美ははじめ、利用することをためらっていた。

 仕事も家事も子供のことも、自分が完璧にこなしたいと思っていたからだ。

 自分の両親に頼むことだって躊躇するような人だから。

 自分でできることは、自分でやるんだと。

 だけど僕たちが今やるべきことは、仕事でも、家事でもなかった。

 それより優先すべきは、舞花との約束だった。

 願いをかなえるために、彼女にした約束はすべて守った。

 今までの手続き的な約束ではなく、守るための約束を、僕たちはした。

 そのためには、どんな手段も使おうと思った。

 どんな手段も使えるんだ。

 だって僕たちには、500万円があるのだから。