その他にも、「一緒に料理を作る」とか「一緒に勉強する」とか「みんなで遊ぶ」とか。

 一つ一つの願いは、決して難しいことには聞こえなかった。

 舞花の貯金500万円から使うほどのことでもなかった。

 簡単にかなえてやれるものばかりだと思っていた。

 だけど、その願いに難しさを感じずにはいられなかった。

 その理由は、


__「一緒に……」


 その言葉が、必ず付け加えられたからだ。
 
 はじめはそれぐらい簡単だと思った。

 一緒にやってあげようと思った。

 どうして今まで一緒にやってあげなかったのか不思議に思った。

 少し考えれば、その理由は、すぐに分かった。
 
 
 僕たちは忙しいからだ。


 僕たちには仕事があるし、家事もあるし、手が離せない時なんて日常の中でいくらでもある。

 ずっと舞花の相手をしているわけにはいかない。

 だから、すべて一緒にやるのは難しいのだ。

 だって僕たちは親だから。

 家族のために働かなければいけないし、家のこともしないといけないんだから。


__「一緒にやろう」


__「これ見て」


 そう言ってキラキラした目を向ける舞花に、僕たちはよく言った。


「あとでね」

「今忙しいから」



 結局、その願いが叶えられることはなかった。

 舞花が一緒に何をしたかったのか、何を見てほしかったのかさえわからずじまいだった。

 そう言っていたことすら忘れてしまう始末だ。

 正直舞花のお願いを面倒だと思ったこともある。

 忙しさを理由に蔑ろにしてきたのも事実だ。

 子どもとの約束を守らなくていいなんて、決して思っていない。

 だけど、忙しさにかまけて、いつの間にか舞花との約束はあってないようなものになっていた。

 「はいはい、わかった」それでおしまい。

 舞花の願いは僕たちの忙しさに埋もれていくばかりだった。