実のところ、僕はスマホゲームにどっぷりはまっていた。

 舞花に厳しいことを言いながらも自分は無制限に、課金までして楽しんでいた。

 選ぶゲームだって、自分の趣味に合うものをいくつもダウンロードして、暇になればかわるがわるゲームの進捗状況の確認やレベルや経験値アップを図った。

 
 大人は自由だ。

 お金も時間も、使い放題。

 それに比べて、子どもは、なんて不自由なんだろう。

 子供には不自由な思いをさせない、そう決めていたはずなのに。

 「大人だから良いんだ」なんて理由、どこにもない。

 そんなこと、大人なんだから、わかってるはずなのに。

 


「舞花は、偉いな」


 不意にそんな言葉がついて出た。

 不思議そうにこちらを見る舞花に、僕は慌てて言った。


「もうちょっとって言ったら、ちゃんとやめられるんだなあと思って」

「だから、いつも「もうちょっと」って言ってるでしょ? 

 私は本当にもうちょっとで終わるのに。

 お父さんたちの「もうちょっと」って一瞬なんだよね」

 そう言って舞花は「ははん」と笑う。
 


 そうか。

 僕たちは、いつも待ててなかったんだ。


 舞花のことを、信じて待ってやれてなかったんだ。

 信じて待ってやればよかったんだ。


「ゲームは30分まで」


 そう言った瞬間、舞花のそばに置いてあったキッチンタイマーが鳴った。


「もう12歳なんだから、こんな約束ぐらい守れるよ」


 悪戯っぽい笑顔を残して、舞花は夕飯を作る歩美に駆け寄った。


 12歳の舞花にできて、どうして40歳の僕にはできないんだろう。

 時間が数秒でも空くと、スマホの誘惑に負けてしまう自分が情けなかった。