僕がバスケットコートに行くと、舞花はもうそこにいた。

 薄いピンク色のTシャツに、白いハーフパンツをはいている。

 今日も髪を高い位置でポニーテールにしていて、すっと滑らかな首筋が露わになっている。

 足元の真っ白なスニーカーが太陽の光に反射するように輝いていて、うだるような暑さの中でそこだけ清涼感があった。

 時刻は6時10分になっていた。

 僕が静かに自転車を降りると、それに合わせて舞花の首が動いた。


「おはよう」


 うるさく鳴く蝉の声の中を貫くように、舞花の透明感のある声が僕の耳に届いた。


「おはよ」

「今日は、来ないのかと思った。寝坊?」

「まあ、そんなとこ」


 僕は舞花から目をそらして言った。

 だけど、昨日決意したことを口にするために、僕は舞花の目をまっすぐと見た。

 言い出す前に、ひとつ大きな息を吐きだす。


「あのさあ……」

「ん?」

「今から、うち来ない?」

「え?」


 そこで、僕たちの会話は止まった。

 お互い、何かを探り合う。

 ほんの数メートルほどの距離の間で、声も音もない問答を繰り返す。

 蝉の声だけが、僕たちの探り合いをわあわあ言いながら見守っている。

 しばらくの間見つめ合って、僕がごくりとのどを鳴らしたときだった。


「いいよ」


 舞花が、さらりとそう答えた。

 それと同時に、生ぬるい風が、僕を追い越していった。