でもこういうことはよくあったんだ。

 舞花は好き嫌いが結構あって、しかも小食だったから、保育園の給食を残しがちだった。

 先生が「ここまでは頑張ろうね」と言って皿に残した給食と、舞花はいつもにらめっこをしていた。

 そんな時、僕がそっと近づいて食べてあげるなんてことはしょっちゅうだった。


__「あおい君」


 そう言いながら潤ませる目の奥は、いつだって悪戯っぽい瞳が光っていた。

 舞花はいつも僕の口にスプーンやフォークをせっせと運んでいた。

 僕も食べてあげるのに必死だった。

 それが先生にバレたときは本当に怒られたけど、それにも懲りず舞花は給食を残し、僕がその残飯を片付けた。


__僕が舞花を助けなきゃ。


 そんな変な正義感で、僕は味わいもせず舞花の給食を黙々と食べた。

 先生たちの動向をうかがいながら二人でこそこそするスリルが、たまらなく心地よかった。

 その時はそれだけだった。

 何も思わなかった。

 「間接キス」なんて言葉、知らなかったし。

 だけど今は違う。

 僕は、舞花のことが好きだって気づいたんだから。

 それに、もう中学生だ。

 それなりに恋愛系には敏感で興味津々だ。

 付き合うとか、手を繋ぐとか、キスとか……。
 
 僕は隣に座る舞花にゆっくりと視線を這わせる。
 
 Tシャツやハーフパンツから伸びる白くて滑らかな手足。
 
 皮膚が薄くて青白い血管がうっすらと見えている小さな手と、すらりと伸びた細い指。
 
 体のラインがはっきりとわかるTシャツの胸元には、キラキラとした装飾でプリントされた筆記体が並んでいるんだけど、それらは僕の知らない間に現れたふくらみによって歪んで見える。
 
 汗に濡れる首筋。
 
 柔らかそうな唇。
 
 そこまできて、僕はパッっと舞花から目をそらした。
 
 これ以上見ていたら、どうにかなってしまいそうだ。
 
 いつの間にか体全体が熱くなっていた。