舞花はどんどん好きなものを買った。
使い方のわからない文房具。
「かわいい」だけの置き物。
暖色系のカーテンやラグ……。
壁には好きなアイドルのポスターや友達との写真がたくさん貼られ、ベッドには好きなキャラクターの巨大なぬいぐるみが置かれた。
僕たちが勉強の妨げになる、不必要で無駄と思っていた物たちが、舞花の部屋をどんどん輝かせていく。
そんなキラキラとした部屋で、僕たちが選んだ家具や、そこに収まる本や服が肩身の狭い思いをしているように見えた。
だから僕たちは、もともとあった家具や本や服を、その部屋から退却させた。
もちろん、リビングにあった本も。
すっきりとなった舞花の部屋を、僕たちは三人でじっと見ていた。
歩美の「舞花のための完璧な部屋」は、跡形もなく消えていた。
好きなものであふれた部屋で、好きなものを身に着けている舞花は、僕たちの知らない女の子に見えた。
それも当然だと思った。
だって僕たちは、舞花のことを何も知らなかったんだから。
舞花の好きなものも、好きなことも、僕たちは、何も知らなかった。
思い返せば、僕たちは舞花に好きなものを買ってあげたことがあっただろうか。
親戚からもらうお小遣いもお年玉もすべて取り上げて貯金に回し、普段からも「そんなものが欲しいの?」なんて言って買い渋り、結局、「何かを頑張ったら……」という条件付きでないと、買い与えることはしなかった。
しかも、買うものだって舞花が選ぶものにはケチをつけ、自分たちの望むものを買うように誘導していた気がする。