「あ、あの! 私、自分の足で歩けるので下ろしてください!」


慌てて抗議をしたが、咲耶が応じる気配はない。

まだ彼を信じていいものかどうか悩んでいる最中なのに、こんなことをされたら、余計に冷静な判断ができなくなってしまう。


「いいから大人しく、俺に抱かれていろ」


しかし咲耶は吉乃を抱きかかえたまま案内所を出ると、路地を過ぎた先にある、花街の仲之町通(なかのちょうどお)りに降り立った。

仲之町通りは大門から真っすぐに延びた、花街の中央にある目抜き通りだ。

両脇には遊女がいる見世に客を紹介する【引手茶屋(ひきてちゃや)】が並んでいて、昼夜を問わず人目がある。

(どうしよう……。すごく、見られてる)

貧相な人の女を、眉目秀麗な軍人が抱きかかえて歩いていたら、注目を浴びて当然だ。

羞恥心から吉乃は必死に下ろしてほしいと懇願したが、咲耶はやっぱり聞き入れてはくれなかった。