「お、お待ちください! もう二度と同じ過ちは犯さないと誓いますので、どうかご慈悲をお与えください!」

「二度と同じ過ちは犯さない、か。だが、俺の聞き間違えでなければ、貴様は帝都を統べる帝の地位を手に入れるなどと(うそぶ)いていたような気もするが」


黒く邪悪な(もや)をまとった刀身を抜いた咲耶が目を細める。

その靄は咲耶の全身を包み込み、禍々しい空気を作り上げた。


「随分と大きな野望を抱いたものだな」


大蜘蛛の言い訳を、咲耶は聞き届ける気はないらしい。

その証拠に手にした刀を構えると、切っ先を大蜘蛛の額に突き付けた。


「め、滅相もございません! すべて悪い冗談です!」

「そうか。だが、俺は冗談が嫌いでね。そして不穏分子は早いうちに摘むべき(なり)というのが、我が軍の戒律(かいりつ)だ」


そうして咲耶は呪文のようなものを唱えると、手にした刀を素早く大蜘蛛に向かって振り下ろした。


「ギャアアアア!!」


次の瞬間、大蜘蛛の身体が真っ二つに割れ、裂け目から咲耶の髪色と同じ黒い煙が噴き出す。


「あ、あ、ぐ、ぐああああ!!」


辺りにおどろおどろしい断末魔が響き渡った。

ふたつに割れた大蜘蛛の身体はあっという間に灰となり、煙のように消えてしまった。