「では次の女、お前で最後だ。前へ出ろ」
けれど答えが出ないうちに、とうとう吉乃の順番がまわってきてしまった。
部屋の上座に座り、女たちが行く見世を告げているのは見た目は腰の曲がった老人だが、額に古い御札のようなものを貼り付けている、人ならざる者だ。
(さっきの子が小見世行きなら、私は切見世行きでもおかしくないよね)
覚悟はしていたつもりだが、胸には更なる絶望が押し寄せる。
吉乃は身体こそ健康だが見た目は特別美人というわけでもなく、強いて言うなら勤勉なところだけが長所と言えた。
問題は、普通と違う瞳の色だ。
薄紅色の瞳を持つ吉乃は、人ならざる者にも『人らしくない女』として見られ、疎まれる可能性があった。
「お前、なにをボーッと突っ立っている。早く前へ出ろ」
「は、はい。すみません」
つい考え込んでしまった吉乃は案内役に急かされ、慌てて足を前に踏み出した。
少しでも心を落ち着けるために深呼吸をしたあと、額に御札を貼り付けた老人の前に立つ。