闘技場の夢を見る。女はやはり其処に居て、剣を構えていた。

「これで分かっただろう。私と本気で戦わないといけないことが」

女が言うことが、ようやく分かった。正人は、夢の中で戦わなければならないのだ。

「分かったよ……。だから今日から真剣にこの剣を構えるよ……」

学生時代に剣道すらしたことのない正人が、こんな真剣を扱えるか疑問だったけど、兎に角売れない作家生命が掛かっているのだ。まじめにやらないと仕事が来なくなってしまう。

「良い心掛けだ。では、いざ!」

ダッと女が勢いをつけて正人に向かってくる。正人はその勢いのある剣先を顔の前で受け止めるのが精いっぱいだ。ガキン! と嫌な音がして、女が一歩後ろに軽快に飛び退る。

「防御だけでは、私に勝てないぞ!」
「分かってますよ! 分かってますけど、こんな武器、扱ったことないんですよ!」

そう言って、やみくもにブンブンと刀を振り回して女に向かっていく。女は軽々とそれを避けて、ひょいひょい、と飛び退った。なんて身軽なんだろう。でも負けるわけにはいかないのだ。折角子供の頃からの夢を掴み取ったのだ。どうしても、仕事が続けたい。

「本気で、行きます……!」
「来い!」

正人が振り回す刀を、女が刃を当てて避けて切ってくる。転びながらも正人は女の刃先を避けて、立ち上がる。そんなことを、何度も繰り返した。夢で女と戦って、起きては真っ白な原稿に頭を抱え、正人は悩んだ。

どうしたら……、どうしたらあの女に勝てるんだ……。

ぽちぽちとエディタに文章を入力しながら、正人は考えた。……そうだ。この前はあの夢に追われて、目覚めた後もなかなか執筆が進まなかった。逆に、起きている状態で執筆が進めば、あの女に勝てるのではないか……?

思いついた案は、名案に思えた。正人はカフェインドリンクを飲むと、パソコンに向き合った。

(兎に角……、兎に角寝てしまう前にいっぱい原稿を進めよう……!)

それが、あの女に勝てる、唯一の手段のような気がした。