リームザードさんが話したお師匠さまの秘密と真実に、誰もが口を閉ざしてしまっていました。

 ――不死の呪い。
 自らの意志によってすら決して死ぬことができず、ただ一人取り残され続ける、この世の理を外れた力。

 もとをたどればリームザードさんのせいだと言えば、確かにその通りなのでしょう。
 だけどリームザードさんだって、望んでお師匠さまにその呪いを押しつけたわけじゃありません。
 なにかを望んだとすれば……それはお師匠さまの方です。

 リームザードさんと出会って、リームザードさんと過ごす時間を大切に感じて。
 リームザードさんの絶望と苦痛を、どうにかしてあげたいと願って。
 そのために魔法の修行を頑張り続けて……一歩届かなかった末に、それでもと葛藤して。
 その道の先で味わうことになる絶望も苦痛も全部承知の上で、自分自身を犠牲にする道を選んだ。

 お師匠さまが自分の意志で選んだことなら、私にリームザードさんを責める権利はありません。
 もとはと言えば私だって、リームザードさんと同じようにお師匠さまに救われた身なんですから。

「……話せるだけのことは話したよ。後の判断は、お前たちに任せる」

 重苦しい沈黙が支配する場に、芯の通った凛とした声が響きます。
 ふと見れば、リームザードさんが机の上から飛び立つところでした。

「あの子がお前たちを受け入れるって決めてるなら、これ以上のことは、お前たちを認めたくないっていうワタシのエゴにしかならないからね」
「よ、妖精さん……どこか、行っちゃうの?」
「安心しなよ。単に自分の部屋に戻るだけ。ここにいると余計な口出ししちゃいそうだし……ワタシに影響されて出した答えなんて、なんの価値もないでしょ?」

 リームザードさん自身、なにも知らずにのほほんとしていた私たちに、なにか思うところがあっただろうことは想像にかたくありません。
 でも同時に彼女自身もまた、もとをたどれば全部自分のせいだという後ろめたさもある。
 この先の私たちの選択に口出しする権利はない。リームザードさんはそう感じているようでした。

「それと今日のこと、別にハロに話してくれてもいいから。それでワタシがあの子にどう思われたって、どんな風に罵られたって、ワタシは受け入れるつもり」
「妖精さん……」
「……じゃあね。お前らがどうするのかは知らないけど……その選択が、あの子を傷つけないことだけ祈ってるよ」

 それだけ言い残すと、リームザードさんは返事も聞くことなく、ピューッと飛んで去っていきました。

 ……たぶんですが、彼女なりに気を遣ってくださった部分もあるのでしょう。
 なにせこれは当事者であったリームザードさんが、何年も悩んだ末にようやく答えを出せた事柄なんです。
 同じように思い悩む時間が必要だ。そういう思いもあって、私たちだけにしてくれたのでしょう。
 リームザードさんは、あいかわらず素直じゃありません。

 リームザードさんがいなくなったことで、部屋の中に再び重い沈黙が降りました。

「ハロ、ちゃん……」

 呟くような声の主は、シィナちゃんでした。

 無表情なことが多いシィナちゃんも、今回ばかりは一目でわかるほどに悲しみをあらわにしていました。
 眉尻を少し下げ、猫耳はペタンとへたり込んで、尻尾も元気なく垂れ下がっています。

 ……口数が少なく、表情の変化も乏しい。他人から見て感情がわかりづらい。
 そんなシィナちゃんですが、その閉ざされた内面が誰からでもわかるタイミングが一つだけあります。
 それは、お師匠さまと一緒にいる時です。

 シィナちゃんはお師匠さまを見つけるや否や、いつも猫耳や尻尾を上機嫌にピンと立たせて、一目散に近づいていきます。
 特にご機嫌な時なんかは、お師匠さまに抱きついてスリスリと頬を寄せ合わせてたりすることもあります。
 普段の生活の中で、どこかボーッとしている彼女の視線を追ってみれば、その先にはいつもお師匠さまがいます。
 どこか他人から誤解されやすい一面があるシィナちゃんですが、その一方で、お師匠さまが大好きであることだけは誰が見ても簡単にわかることでした。

 けれどだからこそ……そんな大好きな人が一人で苦しみ続けていた現実に、彼女は深く思い悩んでしまっていたようでした。

「……お姉ちゃん」

 所在なさげに縮こまったアモルちゃんの眼は、不安に揺れていました。

 アモルちゃんはお師匠さまのことを、お姉ちゃんと呼んで慕っています。
 そう呼び始めたのはおそらく、アモルちゃん自身が誰かとの強い繋がりを求めていたからなんだと思います。
 家族や仲間に拒絶され、誰にも愛されずに育ってしまったからこそ、愛情に飢えていたんです。
 昔、私もお母さんに愛してもらいたくて必死でしたから、わかるんです。

 誰かを愛したい。誰かに愛されたい……。
 そう願うアモルちゃんにとって、愛したぶんだけ愛する人に苦痛を与えるかもしれないという現実は、辛く酷なものであることは想像にかたくありません。

「……わたし、ね……」

 不意にポツリと、アモルちゃんがこぼします。
 涙ぐんだ、苦しそうな声でした。

「お姉ちゃんが、わたしのために新しい魔法を作ってくれてた時……約束、したの」
「……どのような約束ですか?」
「……お姉ちゃんと……死ぬまでずっと、一緒にいたいって……」

 ――私はどこにも行かないよ。約束する。フィリアが望むなら、いつまでだって一緒さ。

 いつかお師匠さまにかけていただいた言葉が私の頭をよぎりました。
 アモルちゃんとお師匠さまと交わしたものと同じ約束。シィナちゃんがこの家に初めて来る直前に、お師匠さまと交わしたものです。

 見ればシィナちゃんも、私と同じように目を見開いていました。
 見ていましたから、私は知っています。
 私と同じ日の夜に、シィナちゃんも私たちと同じ約束を交わしていました。

 アモルちゃんは、今にも泣きそうな顔をクシャリと歪めました。

「お姉ちゃんの中には、やっぱり今も不死の呪いっていうのがあって……妖精さんが言ってたみたいに、自分が苦しいのを全部承知で……わたしたちを受け入れてくれてるっていうなら……あの、約束は……」
「――――」

 私たちは同じ約束を交わしました。
 お師匠さまと、死ぬまで一緒にいる――死ぬまで? お師匠さまは、どうやったって死ねないのに?
 いつか絶対、一人になるのに?

「……わたし……わた、し。あんな約束……しなきゃよかった……わたしに縛りつける、みたいな……あんな……呪い、みたいな……」

 呪い――リームザードさんがお師匠さまに押しつけてしまったものと、同じ。

「わたしの、せいで……結局、お姉ちゃんを傷つけて……悲しませて……泣かせちゃう、だけなら……最初から、わたしなんか……お姉ちゃんの妹になんて……ならなきゃ……」
「っ、それは違います! お師匠さまはアモルちゃんのこと、本当の妹のように大事に思ってますっ! それだけは……それだけは、絶対に否定しちゃいけません……!」

 どうしても聞き捨てならなくて、思わず声を上げてしまいます。

「で、でも……」
「アモルちゃんのことが大切だったから……っ、たとえ苦しくても、一緒にいたいと思ったから……! お師匠さまは……約束してくれたんです。だからそれだけは……お師匠さまの思いだけは、お願いですから、否定しないでください……」

 アモルちゃんに向けて言ったことのはずなのに、その言葉は、自分自身にも突き刺さるかのようでした。
 大切だったから。苦しくても一緒にいたいと思ったから。だから、約束してくれた。
 シィナちゃんとも、アモルちゃんとも……私とも。

「…………ごめん、なさい」
「……いえ……私こそ、すみません……」

 ……時間が、必要でした。心の整理をする時間が。
 三度沈黙が降りた部屋の中、お互いほとんど言葉を交わさずに視線だけを交わすと、自然と私たちは散り散りになりました。

「……お師匠さま……」

 いったいこの先、どうすればいいのか。
 どんなに考えても答えを見つけられず、私はフラフラと家の中を彷徨っていました。

 気がつけば、私は自分の部屋の真ん中に一人で佇んでいました。
 窓の外はどんよりと曇っていて、いつの間にやら土砂降りの雨まで降り始めている。
 カーテンが締め切られていて、部屋の中は、月も星も見えない夜のように暗かった。
 まるで先の見えない闇の中を彷徨っているような気分に陥って、私はガクンと床に膝をつきました。

 顔を上げる気力もなく、俯いたまま、お師匠さまと過ごした日々に思いを馳せます。
 
 リームザードさんとの約束を守れなかったと後悔していた弱々しいお師匠さま。
 一緒にいたい。声を聞きたい。触れてみたい。そう思って私を買ったのだと告白した、恥ずかしそうでいて、どこか怯えたようなお師匠さま。
 熱を出した際、私にできることならなんでもすると告げた時に、一人にしてほしいと答えた儚げなお師匠さま。
 朝起きた時の、無防備なお師匠さま。一緒に台所に立つ、身近で家庭的なお師匠さま。
 読書に勤しむ楽しげな横顔のお師匠さま。魔導書を書いている時の真剣なお師匠さま。

 思えばお師匠さまと出会ったその日から、私はいつもお師匠さまのことばかり見ていました。
 お師匠さまがいたから、毎日が楽しかった。お師匠さまがいたから、いつだって笑っていられた。
 お師匠さまがお留守の時だって、日が暮れた後に帰ってくるお師匠さまのことを思えば、今日も一日頑張ろうと思えました。
 もう、お師匠さまがいない生活なんて考えられない。
 ましてやお師匠さまのそばを離れるだなんて、それだけは絶対に考えられないことでした。

 ……だったら、たとえどんな結末になろうと構わず、お師匠さまのそばにいる?
 いつかお師匠さまが苦しむ定めでも、そこから目を背けて知らんぷりをして、私だけ幸せなまま一生を終える?

 ……ダメです!
 そんなこと、できるはずがありません……。

 だってもしも私が不死で、いつかお師匠さまがいなくなって、私一人だけ永遠に取り残される定めだとしたら……私はきっと、その先を耐え切れない。
 それと同じ苦痛を大好きなお師匠さまに無責任に押しつけるだなんて、そんな残酷な未来、私は選べません。

 けれどだとしたら……私は、どうすればいいんでしょうか?
 お師匠さまのそばを離れるのも、一緒にいて苦しませてしまうのも嫌だなんて。
 こんなの、どちらかを選ばないといけないのに選べないワガママ。あれも嫌だこれも嫌だと、どうにもならないことを認められない、子どもじみた癇癪です。

 ……お師匠さまは、私が真実を知ればこんな風に思い悩んでしまうことをわかっていたんでしょう。
 だからなにも言わなかった。なにも教えてくれなかった……お師匠さまは、いつだって私たちに優しいから。
 でもお師匠さまが私たちに隠していたこれは、今までのどんな温かなものとも違う、とても残酷な優しさでした。

 お師匠さまと一緒に居続けるか。お師匠さまのそばを、自ら離れるか。
 ……お師匠さまがいない、生活……。

「…………お母さん」

 無理にでも想像しようとして頭に浮かんできたのは、お師匠さまと出会うよりも前の私でした。

 物心ついた時から、私の家には私とお母さんの二人だけでした。
 たった二人の家族。けれど、お母さんに愛された記憶はありません。
 頭を撫でてもらえたことも、手を繋いでもらえたことも、ご飯を作ってもらえたことも。
 お母さんは私を一人で家に置き去りにして、毎日のように一人でどこかへお出かけしていました。
 餓死だけはしないようにと机の上に残された最低限のお金だけが、お母さんがくれた唯一のものでした。

 私とお母さんは、いつも違うものを見ていました。

 私が見ていたのは、村で過ごす幸せそうな家族の姿。
 他の子どもたちが自分の両親と楽しそうにしている姿を見るたびに、憧れの感情が私の心を焼きました。
 私もお母さんに愛してほしかった。見てもらいたかった。あんな風に頭を撫でてもらって、手を繋いでほしかった。

 お母さんが見ていたのは、知らない男の人。
 時折村の中で見かけるたびにいつも違う男の人と歩いていて、恍惚とした笑顔を浮かべたお母さんの視線は、いつだって隣に立つその人に釘付けでした。
 お母さんがなにをしているのかは当時の私にはわかりませんでしたが、どこか遠く、行ってはいけない場所にいることだけは、子供心ながらに理解していました。

 私のお母さんは最低な人だと、村の中でも疎んでいる人は多かったです。
 一人ぼっちの私に村の人はいつだって親切にしてくれて、お母さんの代わりにいろんなものをくれました。
 私がお母さんに見てもらいたくて、娘だって認めてもらいたくて、がむしゃらに頑張ることができたのも、村の人たちが私のために勉強の道具を貸してくれたりしたからです。

 もしかしたらそのまま、お母さんと離れ離れになってしまった方がよかったのかもしれません。
 だけど私は、その道を選べませんでした。
 どんなに村の人たちが優しくしてくれても、私はお母さんと一緒にいたかった。

 幸せな家族に憧れがあったのも理由の一つですが、それだけじゃありません。
 お母さんに愛されたいと思うたびに、幻のような光景が私の脳裏をよぎるんです。
 一人ではなにもできないくらい小さく、幼い私が、お母さんの優しい腕の中に包まれる夢。
 私を見つめるお母さんの視線は慈しみに満ちていて、見たことがない幸せそうな笑顔を浮かべていた。
 お母さんに愛してもらえた記憶なんて一つとしてない。だけどそんな幸せな夢が、いつまでも消えてくれなかった。

 一度だけ、村の人が言っているのを聞いたことがあります。
 お母さんは、昔はああじゃなかったんだって。
 私が産まれたばかりの頃はお母さんは私のこともきちんと愛していて、お父さんと二人で子育ての勉強をいっぱいしてたんだって。
 だけど私の物心つく前、私のお父さんだった人が野盗に殺されてから、お母さんは変わってしまった。
 もうどこにもいない夫の影を求めるみたいに、いろんな男の人と肌を重ねるようになった。

 お母さんは、間違いなく最低な人です。
 無責任に子育てを放棄するに飽き足らず、たった一人の娘を奴隷商に売り飛ばした。
 救いようがない、天罰を受けて当然の人です。

 ……でも、もし。
 もし私のお父さんが野盗に襲われることなんてなくて、今もまだ生きていたなら。
 私もお母さんも、普通の生活を送れていたんじゃないかって思うんです。
 夢としか思えない、あの心から幸せな微笑みを浮かべたお母さんが、私が産まれた時に浮かべてくれた笑顔なんだとしたら。
 顔も覚えていないお父さんと一緒に、三人で、いつか憧れた家族みたいに過ごせたんじゃないかって。

 それとももしかしたら、私一人でもできたんでしょうか。
 お師匠さまが私を救ってくれたように、私にも、お母さんを救うことが……。
 私が見ていたのは、いつも別の家族だった。楽しそうな家族の姿に憧れて、ああなりたいと願った。
 でもそれは裏を返せば、お母さんを見ていないことと同じだったんじゃないかって思うんです。
 私は、お母さんが本当に見ているものを理解しようとしなかった。
 私はただ、私と同じように一人ぼっちで苦しんでいたお母さんに……押しつけるみたいに、身勝手に、愛してほしいと願っただけ。
 知らない男の人と歩いていたお母さんが見ていたものが、本当は隣に立つその男の人なんかじゃなくて……亡くなったお父さんの面影なんだって、そんな簡単なことにも気づけなかった。
 あなたなんか私の娘じゃない。そんな風にお母さんに拒絶されるのが怖くて、お母さんの気持ちと向き合うことから逃げていたんです。

 本当に大好きな人に出会えた今だからこそ、私は少しだけ、お母さんの気持ちが理解できる気がしました。
 大切な人を失う辛さ。失ったものを求める渇いた心。どんなに代わりのものを詰め込もうとしたって、決して埋まらない虚ろな穴。

 ……もちろん、だからと言って私を捨てたことを許せるわけではありません。
 金属でできた手枷と足枷の氷のように冷たい感触は……一生、私の心に染みついたままです。

 けれど、もう恨んではいませんでした。
 たとえその関係の末路がどうあれ、お母さんと過ごした日々の果てで、こうしてお師匠さまと巡り会えたことは事実なんです。
 あのまま一生を村の中で終えていたら、私はお師匠さまに出会うことすらできなかった。

 だから……もういいんです。
 お母さんと本当の家族になることはできなかったけど、あの頃欲しかったものはもう、私の手の中にあるから。

 ――気になるようなら、そうだな……自分を奴隷だと考えるのをやめるといい。私たちはこれからは家族だ。

「……お師匠さま……」

 身勝手な願いだった。お母さんに捨てられたその瞬間に、叶う可能性なんて潰えたはずの夢だった。
 いつか見た幸せな家族の姿。それとは少し違ったかもしれないけれど……お師匠さまは、私の手を握って、頭を撫でて、優しく笑いかけてくれた。
 愛情がこもった温かいご馳走を毎日振る舞ってくれた。
 私がずっとずっと欲しかったものを、これでもかっていうくらい、両手いっぱいにくれた。

 ……大好きなんです。
 私が嬉しそうにすると、お師匠さまは笑ってくれる。お師匠さまが嬉しそうだと、私も笑顔になる。

 離れたくなんかない。失いたくもない。
 たとえワガママでも、身勝手でも、子どもじみた癇癪でも……。
 もしこれが、自己満足に過ぎないのかもしれなくても……。

 私はお師匠さまの隣にいたい。笑い合って、最期のその瞬間まで一緒に生きていきたい。
 私とお師匠さまの繋がりを、いつかの私とお母さんみたいな、虚しくて悲しい結末にはしたくない。
 お師匠さまに、幸せになってほしい。

 そのためなら……私はもう、大切な人と向き合うことから恐れない。

「……お昼ご飯、食べそびれちゃってましたね」

 気づかないうちに、ずいぶんと長い間悩んでしまっていたようです。
 ふと見れば窓の外の雨はとっくに止んでいました。
 カーテンの隙間から見える晴れ始めた空の向こうでは、夕日が鮮やかに輝いています。

 こんな時間まで一人でボーっとし続けてしまっていたことに少し苦笑いをして、私はようやく立ち上がると、私は自分の部屋を出ました。
 お師匠さまは、まだ帰ってきていないようです。
 いつもなら残念がるところですが、今だけはちょうどよかったです。
 お師匠さまが帰ってくる前に、どうしてもしておきたいことがありましたから。

 ――コンコン。

「……入っていいよ」
「リームザードさん。あなたにお願いがあります」

 リームザードさんは、私には覚悟が足りないとおっしゃっていました。

 ですが、もう違います。私は必ずお師匠さまとの約束を叶える。
 死ぬまで一緒にいるっていうあの約束が、この先ずっとお師匠さまを縛りつける呪いだって言うなら……私がこの手で祝福に変えてみせます。

 もう、お師匠さまに追いつくだなんて言わない。届かないかもしれなくても諦めないなんて言わない。
 胸を張ってお師匠さまと生きていけるように、私は絶対に、その先を目指すんだ。

「――……そっか。いいよ。お前がそこまでやるっていうなら、ワタシも手を貸してやる」

 私のお願いの内容を聞いて、リームザードさんは初めて、お師匠さま以外に微笑んでくれたのでした。