「失礼しました」
 翌日の放課後、先生にある用事があって職員室を訪れたけどいないと分かってがっかりしながら扉を閉めた。とぼとぼ歩いていると前方から革靴で廊下を歩いているようなコツコツという足音が近づいてきて誰だろうと思って顔を上げると、先生だった。
「あっ沖野先生!」
「ああ、羽瀬川さん」
「今忙しいですか?」
「いえ、用事が済んで職員室に戻ろうとしていたところなので忙しくはないですが……。何か私に用事ですか?」
 やっぱりやめようかな、と躊躇った私は少し遅れてこくりと頷いた。
「ちょっと、大事な話があって……」
「大事な話、ですか」
 先生は真顔で顎に手を当ててやがて今朝と同じように私に背を向けた。
「なら、ここじゃない方がいいな」
 先生は低い声でぼそぼそと呟くとすぐに歩き始める。待ってどこ行くの。私は戸惑いながらも急いで追いかけた。が、凄まじい早足で置いていかれないように小走りでついていく。
数メートルほど進んだところで先生は立ち止まって、すぐ近くの部屋のドアを開けて中に入っていった。