「心配させてすみません!」
 私は慌てて頭を下げた。
「体調は全然悪くないです。……実は、私も違反してないかどうかチェックしてもらおうと思って待ってたんです」
 先生と挨拶を交わしたくて話が終わるのを待っていたなんて、本当の理由を言えるわけがないので咄嗟に嘘を吐いて誤魔化した。
「いえ何ともなくてよかったですが……、女子は女の先生に検査してもらうようになっていますので」
「あっ……。そっか」
 しまったという心の声が漏れなくてよかったが羞恥心で頬と耳が熱くなる。じゃあいいです、と小声で言う。もうこれ以上この場にいるのは不自然だろう。よし。私が立ち去ろうとした時、「スカート、曲げてないの珍しいですね」と先生がぽつりと言った。
「えっ……。だって曲げるの禁止ですよね?」
「それでも、女子の大半は曲げてるんですよね? みんな、普段は曲げてるけど先生方に注意された時と服装検査前だけ急いで元に戻してる……。女子の検査を担当している瑞原《みずはら》先生にそう教えていただいたことがあったので」
 蓮歌含む私の友人たちとクラスメイトの女子半数以上は曲げていることは結構前から知っている。でも。
「みんな曲げてるけど私は曲げませんよ」
「それは……どうしてですか?」
 先生の不思議そうな顔を目にして、
「そんなの決まってるじゃないですか。スカート曲げても何も変わんないからですよ。そりゃあ可愛い子がスカート変えたら可愛くなるだろうけど、私みたいなブサイクがスカート短くしたところで可愛くなるわけがないしぶりっ子って悪口言われるだけですよ」
 まずい。後先考えずに普段思っていることをそのままぶちまけてしまった。先生は真顔で黙り込んでおり気まずい。
「なんかベラベラ喋ってすみませんでした! じゃあもう行きますね」
 早口でまくしたてるように言うと、釘本くんと同じように先生から逃げるように走り去った。
「羽瀬川さん!」
 後方から声だけが追いかけてきた。声の主は先生だと振り返らなくても分かる。とてつもない喜びと嬉しさを感じながら「はい」と振り返った。
「結構ハキハキと喋るんですね。てっきり大人しいタイプだと誤解してたので口が悪い男子にも物怖じせずに注意してる姿を見てびっくりしました」
「はい。喋りますし大人しくないです」
 私が満面の笑みを浮かべつつ断言すると先生は「そうですか」と笑った。やはりぎこちないが怖くはない。
 先生は生徒と教師から好かれていない嫌われ者らしい。けど先生が私のことを誤解していたようにみんなは先生のことを誤解しているだけだと思う。
 今年はいい冬になりそうだ──。ネガティブな性格の私らしからぬポジティブな予感がするのは、きっと浮かれている。スキップしそうになり後ろから女子生徒に追い越されてスンと冷静になってやめた。