「私、最初は先生のこと嫌いだったんです」
 私が打ち明けると先生は苦々しい表情になり「そうか」と私の方を見ずに返した。
「まあ、入学早々泣かせたからな」
「はい。凄く怖かったから……。でも学校嫌いだって分かったり眼鏡掛けだってことに気づいて親近感湧いたりして。中一までは蓮歌の家にしょっちゅう遊びに行ってたけど……、中二からは蓮歌が他の友達と遊ぶようになってからあまり遊ばなくなって寂しかった。教室では話しかけてくれるけど時々だし一人でいる時は凄く怖い。小六の頃に運動音痴が原因で虐めに遭ったことがあったから……。『死ね』『ぶりっ子』『消えろ』って悪口言われた。中学でもまたそんな風に言われたらどうしようって怯えてたし虐められないように大人しくしてた……。だから学校なんか大嫌いだけど、先生が褒めてくれて先生のことを好きになってからは世界が明るく見えるようになった」
 今までは、感動する出来事が眼鏡の外側で起きても何も感じず、眼鏡の内側で私には起こり得ないと拗ねていた。それが先生を好きになってから、歩道に花が咲いているだけで感動するようになり幸せを感じるようになった。
「私、もっと早く先生に話しかけて、仲良くなって、沢山思い出作ればよかったって距離を置くんじゃなかったって正直凄く後悔してる。でも。”忘れたい”じゃなくて、”何度でも思い出したいから忘れたくない”と本気で思える……思い出(宝物)をくれてありがとうございます」
 先生を好きになってよかった、と言った瞬間鼻の奥がつんと痛んだけど泣くのは我慢した。泣き虫だと思われたくなかったから。