「間違いなく惚れやすいタイプだろ!」
「別に褒めてくれた人全員好きになってるわけじゃないですから!!」
同級生のように突っ込んできた先生にすぐに訂正する。
「先生の場合は、大人しくてあまり話したことがない生徒が頑張っていることに気づいて面と向かって褒めてくれたから……。頑張りを認めてもらえて凄く嬉しかったんです」
先生が褒めてくれたお陰で、少し自信が持てたし先生はみんなが噂しているような人じゃなくて熱いハートを持っている人なのかも、と思ったその時が初めて誤解が解けた瞬間だったように思う。
「ごめん……。恋愛対象として見ることはできない。それから……、実は好きな人がいるんだ」
突然打ち明けられた衝撃の事実に声すら発せない私から目を逸らした先生は「かおり」と呟くように言った。
「難しい方の薫るに果物の梨で薫梨って書く。俺は薫梨に高校の頃からずっと片想いしてるんだ……。週末に俺の方から告白しようと思ってる」
先生が不安そうな視線を私に戻したから頑張って微笑んだ。
「先生も私と一緒でずっと片想いしてたんだ……。でも、何で初めて告白した時には教えてくれなかったんですか? 好きな人がいるから付き合えないって断ればよかったじゃないですか」
先生を安心させるために微笑んで返事を急いだのにいつの間にか先生を責めていて、しまったと思うけど遅い。先生の表情はもう暗くなっている。
「……真希は生まれて初めて告白したのか?」
何で急にそんな質問するんだろうと怪訝に思いながらも頷くと先生は深く俯いた。
「俺も生まれて初めて告白されたから、テンパって……真希もすぐに帰るから伝える暇なかったし伝えることを思いつきもしなかった」
それにな、と先生は沈んだ声で言葉を継いだ。
「告白できないまま高校卒業してしまったから諦めてたんだ。だけど、実家に帰省する途中で偶然立ち寄ったカフェの店長を薫梨が務めていて、俺は薫梨と少しでも話がしたくて常連客になるまで通い詰めた。な、きもいだろ? せっかく好きになってくれたのに幻滅されて嫌われたくなかったんだよ……。臆病者なんだ」
先生は言い終わるとすぐにどんよりとした表情で深く俯いた。
「そんなことで幻滅して嫌いになるって思われてたことが心外です。一途で素敵だなぁってもっと好きになりました」
私がそう言うと先生は顔を上げて「そうなのか?」と表情をぱっと明るくした。
「……ごめん。どうしても心配で……。ありがとう。それを聞いて、本当に安心した」
どういたしまして、と私が微笑んだら先生も少し微笑んだ。
素直に応援することはできないし絶対に成功して欲しくない。本音を伝えたいけど我儘な子供だと先生に呆れられることだけは避けたい。かと言って、告白うまくいくといいですねと素直に言えるほど大人じゃない。そうだ、私はまだ十五歳の子供なんだ。どうしようか迷った末に私は先生を見上げて口を開いた。
「安心しました」
言い終わると同時に口角を上げて笑う。困った顔をしている先生をこれ以上困らせないために私は今から嘘を吐く。
「先生に二回振られたから、これで心置きなく返事ができるなぁって……。実は昨日同じ塾に通ってる……、おのきくんから告白されてとりあえず返事を保留したんです。沖野先生にもう一度告白して返事を聞いてからにしようかなぁって。二回目の告白も失敗に終わったから今日の夜にOKの返事を出すつもりです。だから、安心してください。もう二度と告白しないので」
私は呆然としている先生を見詰めながら、嘘笑いは下手くそだが嘘を吐くのは結構得意であることを、授けてくれただろう神様に感謝する。だけど、徐々に胸の痛みは激しくなってきて、そのまま放っておけば心ごと吐瀉物のようにどろどろに溶けていくような気がした。
「別に褒めてくれた人全員好きになってるわけじゃないですから!!」
同級生のように突っ込んできた先生にすぐに訂正する。
「先生の場合は、大人しくてあまり話したことがない生徒が頑張っていることに気づいて面と向かって褒めてくれたから……。頑張りを認めてもらえて凄く嬉しかったんです」
先生が褒めてくれたお陰で、少し自信が持てたし先生はみんなが噂しているような人じゃなくて熱いハートを持っている人なのかも、と思ったその時が初めて誤解が解けた瞬間だったように思う。
「ごめん……。恋愛対象として見ることはできない。それから……、実は好きな人がいるんだ」
突然打ち明けられた衝撃の事実に声すら発せない私から目を逸らした先生は「かおり」と呟くように言った。
「難しい方の薫るに果物の梨で薫梨って書く。俺は薫梨に高校の頃からずっと片想いしてるんだ……。週末に俺の方から告白しようと思ってる」
先生が不安そうな視線を私に戻したから頑張って微笑んだ。
「先生も私と一緒でずっと片想いしてたんだ……。でも、何で初めて告白した時には教えてくれなかったんですか? 好きな人がいるから付き合えないって断ればよかったじゃないですか」
先生を安心させるために微笑んで返事を急いだのにいつの間にか先生を責めていて、しまったと思うけど遅い。先生の表情はもう暗くなっている。
「……真希は生まれて初めて告白したのか?」
何で急にそんな質問するんだろうと怪訝に思いながらも頷くと先生は深く俯いた。
「俺も生まれて初めて告白されたから、テンパって……真希もすぐに帰るから伝える暇なかったし伝えることを思いつきもしなかった」
それにな、と先生は沈んだ声で言葉を継いだ。
「告白できないまま高校卒業してしまったから諦めてたんだ。だけど、実家に帰省する途中で偶然立ち寄ったカフェの店長を薫梨が務めていて、俺は薫梨と少しでも話がしたくて常連客になるまで通い詰めた。な、きもいだろ? せっかく好きになってくれたのに幻滅されて嫌われたくなかったんだよ……。臆病者なんだ」
先生は言い終わるとすぐにどんよりとした表情で深く俯いた。
「そんなことで幻滅して嫌いになるって思われてたことが心外です。一途で素敵だなぁってもっと好きになりました」
私がそう言うと先生は顔を上げて「そうなのか?」と表情をぱっと明るくした。
「……ごめん。どうしても心配で……。ありがとう。それを聞いて、本当に安心した」
どういたしまして、と私が微笑んだら先生も少し微笑んだ。
素直に応援することはできないし絶対に成功して欲しくない。本音を伝えたいけど我儘な子供だと先生に呆れられることだけは避けたい。かと言って、告白うまくいくといいですねと素直に言えるほど大人じゃない。そうだ、私はまだ十五歳の子供なんだ。どうしようか迷った末に私は先生を見上げて口を開いた。
「安心しました」
言い終わると同時に口角を上げて笑う。困った顔をしている先生をこれ以上困らせないために私は今から嘘を吐く。
「先生に二回振られたから、これで心置きなく返事ができるなぁって……。実は昨日同じ塾に通ってる……、おのきくんから告白されてとりあえず返事を保留したんです。沖野先生にもう一度告白して返事を聞いてからにしようかなぁって。二回目の告白も失敗に終わったから今日の夜にOKの返事を出すつもりです。だから、安心してください。もう二度と告白しないので」
私は呆然としている先生を見詰めながら、嘘笑いは下手くそだが嘘を吐くのは結構得意であることを、授けてくれただろう神様に感謝する。だけど、徐々に胸の痛みは激しくなってきて、そのまま放っておけば心ごと吐瀉物のようにどろどろに溶けていくような気がした。