先生は真剣な表情と声音で話した後に苦笑した。
「まあ、最も嫌われるのは他人を故意に傷つける人間だけどな。だからそういう生徒たちを見つけたら厳しく指導してる」
「やっぱり先生は優しいですね」
 私が心がぽかぽかと温かくなるのを感じながら言うと「違う」と速攻否定された。
「優しい人間っていうのは俺のような人間じゃなくてかおりのような人間のことを言うんだ」
「かおりさん……って誰ですか?」
 さすがに二度も同じ名前を出されたら気になって質問せずにはいられなかった。
「高校の時からの友人だよ」
 先生は微妙に目を逸らしつつ短く答えた。その答え方でその話題には触れて欲しくないことを察して今も友人なのかという質問はしなかった。私もこれ以上話を広げたくなかったので話題を変えることにした。
「あれ? でも釘本くんは悪口言って先生を故意に傷つけたのにすぐに注意しませんでしたよね?」
 今年の十一月三十日にクラスメイトである釘本輪留は腰パンを注意された腹いせに沖野に向かってハゲと暴言を吐いた。
「しなかったんじゃなくて……、できなかったんだ」
「えっ?」
「あまりにショックを受け過ぎて、な」
 言いつつ先生は辛そうに笑った。
「だから真希が代わりに注意してくれて本当に助かった……。真希はかおりと同じで優しい人間だ」
 話題に変えたはずなのに先生がすぐに戻した。それになぜだろう、最も褒めてもらえたい人に褒められたのに嬉しくないのは文頭に余計な七文字があるせいに違いない。