「先生にうつすといけないしそろそろ帰ります」
 もちろんマスクははめているけど万が一うつしてしまったら一生後悔することになるだろう。私は立ち上がってドアに手をかけたところで聞きたいことがあるんだったと思い出して振り返った。
「でも帰る前に一つだけ質問いいですか?」
「多分、俺は免疫力が高いからうつんないと思うけど……。そうだな、早く家に帰って休んだ方がいい。……質問?」
「はい。先生は私たち生徒を指導するの、本当は嫌でやりたくないって思ってますか? 前からずっと気になってて」
「そりゃ嫌に決まってるだろう。でも誰かが必ずやらなければいけない大切な仕事だ」
 やりたくない仕事を無表情で完璧にこなしているという勝手な憶測が偶然あたっていて、先生ってやっぱり凄いと再び心の中でを称賛しながら私はうんうんと頷く。
「それに、真希たちは必ず社会に出ていかなければいけなくなる。働くため……生きるために。社会人として最低限守らなければいけないルールは校則より多くあります。そのルールやマナーを破ってしまえば嫌われる恐れがあるし……、破って迷惑をかけてしまったら、周りの人たちはこれ以上迷惑をかけられるのは御免だと離れていって、やがて独りぼっちになるだろう。そうなると寂しいからルールやマナーは守った方がいいし、できれば……孤独感に苛まれない人生を送って欲しい。俺が真希たちを厳しく指導するのはそう願っているからだよ。将来の真希たちが幸せに過ごせるなら別に嫌われても憎まれてもいい」