先生に告白してからちょうど一週間経った放課後、生徒指導室で私は「ねぇ……」と掠れた声で話しかけた。が・ん・ば・り・ま・すッ!! と宣言した翌日から、受験勉強の合間を縫って朝、昼休み、そして放課後に先生に積極的に話しかけた。先生は最初こそわざとらしく嫌そうな顔をしていたが質問したら無視せずに答えてくれた。三日目からは諦めたのか、嫌そうな顔はしなくなり時折微笑みつつお喋りしてくれるようになった。
「先生にお願いがあって……。羽瀬川さんじゃなくて真希って呼んで欲しいんです」
「カップルの真似事か?」
 先生に呆れた表情と口調で問われて「違います」と私はむっとしながらかぶりを振って、スカートの上で両手を握りしめて俯いた。
「苗字が嫌いだから。呼ばれる度に嫌な気分になるから……」
「そんなに嫌なら分かった……。これからは羽瀬川さんじゃなくて真希さんって呼ぶようにする」
「いやさん付けは気持ち悪いので呼び捨てで……」
「そうか? ……分かった」
「ありがとうございます」
 笑った後に質問しようとしたけど、《《また》》咳が出て私はうんざりしてため息を一つ吐いた。朝晩が冷え込むせいか受験生にとって大事な十二月に風邪を引いている。いい加減早く治って欲しいと苛つくのは引いてから既に一週間経過しているからだ。小学生の頃から一度引いたらなかなか治らず治るのに最長で二週間かかったこともある。
「大丈夫か? さっき喉も痛いって言ってたしあまり喋んない方がいいんじゃないか?」
「え゙〜……?」
 ようやく咳が治まって声を出したらガラガラ声で声を戻すために何度か咳払いをした。
「でも、ベッドから起き上がるのしんどかったけど、行かないと先生とお喋りできないから寒い中頑張って登校してきて……。授業の時も給食の時も咳が止まらなくなって辛かったけど何とか乗り越えて、やっと放課後を迎えたのに」
「それは偉いし本当によく頑張ったと思う。だけど無理して喋る必要はない。症状が良くなってから好きなだけお喋りすればいい」
 私は少し考えた後に「そうですね」と頷いた。