先生の返事にどうしても納得できなかった私はすぐに言った。
「よく考えてから返事してください」
 よく考えました、と先生は困ったように笑う。
「昨日の夜に万が一本気だった場合、付き合うかどうかよく考えたんです。すみません。下手な嘘を吐くと却って傷つけてしまうと思うので正直に言います。私にとって羽瀬川さんは生徒で……、」
「恋愛対象として見ることはできない?」
 その先に続く言葉は容易に予想できたからこそ先生の声で断言されたくなくて私は急いで質問した。先生は目を伏せながら無言で頷く。はいと答えないのはもしかして、気を遣ってくれているのだろうか。
「今はそうだとしても、これからどうなるかはまだ分からないですよね?」
 私はお気遣いなくと伝えるために声が震えないように充分気をつけながら訊いた。
 昨日人生で初めて告白をして、今日人生で初めて振られたという世間一般的に辛いと感じるような経験をしたのに、涙が出ないのは──まだ諦めていないからだ。
 先生は私のことを全然知らない。だから卒業式までに女性として意識してもらえるチャンスはまだきっとある。自分を勇気づけるために胸の内で呟く。私は本来泣き虫で、実際先生に泣かされた二年前のあの日は眼鏡のレンズが涙で曇るぐらい大泣きしていた。
「先生に好きになってもらえるように頑張ります!」
「頑張らなくていいです」
 深く息を吸った後に強く宣言したけど先生は真顔で即答した。嘘や冗談ではなく本気の声音だったから振られた時よりショックを受ける。やばい好きにさせるの無理かも。
「が・ん・ば・り・ま・すッ!!」
 私は頭の中に浮かんだネガティブな言葉を何とか打ち消そうと一文字ずつ強く発音した。