蓮歌が目を白黒させながら私と先生の間に割って入ってきた。邪魔しないで、と少し苛つきながら右に避けてから歩き出す。
「ストップ!!」
蓮歌が突然目の前に立ち塞がってきたので「わっ!」と私は思わず声を上げた。
「いや、私、今トイレから戻ってきたところだから全然状況が掴めてないんだけどさ! なんか、沖野に用がある感じ?」
「うん、そう。だからちょっとそこどいて」
「どくのは全然構わないんだけど……今は沖野に話しかけない方がいいと思うよ」
蓮歌とこうして話している間にも背中は見る見るうちに小さくなっていく。このままじゃ先生が次に授業を行う教室に入って話しかけづらくなる。
「何で?」
怒っていることが分かる声が出て、声を取り繕う余裕がないぐらい焦っているらしいと他人事のように思った。
「今さっきすれ違った時に顔見たら、めちゃめちゃ怒ってたから」
蓮歌も意に介した様子もなく、頭の上に人差し指を二本立てていわゆる鬼ポーズをしながら言った。
「……怒ってた? そんなに?」
「うん! あれはマジやばいよ、眉間にふっか〜い皺寄せてたし」
「多分私に怒ってると思うんだけどね……、何で怒ってるのか分からないの」
先生が四組の教室に入って廊下から消えたので私は追いかけることを諦めて素直に打ち明けた。
「なんで?」
「えっ?」
「何で沖野は真希に怒ってるの? 真希、超優等生なのに」
「私は優等生じゃない。……けど分かんないから困ってる」
「そっかぁ……。何でだろうねー」
お互いにうーんと唸る。しばらく考えて、一つ思い当たることがあってはっと息を呑む。昨日私が告白した後に先生は変な独り言を呟いていた。やっぱり誤解されていると感じたのは気のせいではないのだ。
「よし。放課後、先生に訊きにいく」
誤解を解くためにも、昨日から心にかかったままのもやもやを解消するためにも、そうした方がいい気がしたし、自分で理由を考えるより行動した方が手っ取り早いと思った。
「ええっ!? もっ、申し訳ないけど……私は行かないよ? だって怖いし怒られたくないもん」
「うん。大丈夫。私一人で行くから」
「一人……。一人で、行くの? やっぱり……心配だから私もついていこうかなぁ」
「ううん大丈夫。怖いのに無理してついてこなくてもいいよ」
「うーん……。どうしよう。もし真希に何かあったら、私は一生後悔するかもしれない……」
何それ、と私は蓮歌の口から出た大袈裟なワードに呆れて笑った。
「もしかして、先生が私に何かすると思ってるの?」
悪い妄想をしているのだろう、蓮歌は怯え切った瞳を向けながらこくこくと頷く。面白くも楽しくもない時に笑うのは正直苦手だけど、蓮歌を安心させるために、蓮歌が先生に対して抱いている大きな誤解を解くために、私は口角を上げて精一杯微笑んだ。
「蓮歌。沖野先生はそんな人じゃないよ。悪い人でも怖い人でもない。無理に好きにならなくていいし嫌いなままでもいいけど、どうかそれだけは……誤解しないで欲しいな」
「ストップ!!」
蓮歌が突然目の前に立ち塞がってきたので「わっ!」と私は思わず声を上げた。
「いや、私、今トイレから戻ってきたところだから全然状況が掴めてないんだけどさ! なんか、沖野に用がある感じ?」
「うん、そう。だからちょっとそこどいて」
「どくのは全然構わないんだけど……今は沖野に話しかけない方がいいと思うよ」
蓮歌とこうして話している間にも背中は見る見るうちに小さくなっていく。このままじゃ先生が次に授業を行う教室に入って話しかけづらくなる。
「何で?」
怒っていることが分かる声が出て、声を取り繕う余裕がないぐらい焦っているらしいと他人事のように思った。
「今さっきすれ違った時に顔見たら、めちゃめちゃ怒ってたから」
蓮歌も意に介した様子もなく、頭の上に人差し指を二本立てていわゆる鬼ポーズをしながら言った。
「……怒ってた? そんなに?」
「うん! あれはマジやばいよ、眉間にふっか〜い皺寄せてたし」
「多分私に怒ってると思うんだけどね……、何で怒ってるのか分からないの」
先生が四組の教室に入って廊下から消えたので私は追いかけることを諦めて素直に打ち明けた。
「なんで?」
「えっ?」
「何で沖野は真希に怒ってるの? 真希、超優等生なのに」
「私は優等生じゃない。……けど分かんないから困ってる」
「そっかぁ……。何でだろうねー」
お互いにうーんと唸る。しばらく考えて、一つ思い当たることがあってはっと息を呑む。昨日私が告白した後に先生は変な独り言を呟いていた。やっぱり誤解されていると感じたのは気のせいではないのだ。
「よし。放課後、先生に訊きにいく」
誤解を解くためにも、昨日から心にかかったままのもやもやを解消するためにも、そうした方がいい気がしたし、自分で理由を考えるより行動した方が手っ取り早いと思った。
「ええっ!? もっ、申し訳ないけど……私は行かないよ? だって怖いし怒られたくないもん」
「うん。大丈夫。私一人で行くから」
「一人……。一人で、行くの? やっぱり……心配だから私もついていこうかなぁ」
「ううん大丈夫。怖いのに無理してついてこなくてもいいよ」
「うーん……。どうしよう。もし真希に何かあったら、私は一生後悔するかもしれない……」
何それ、と私は蓮歌の口から出た大袈裟なワードに呆れて笑った。
「もしかして、先生が私に何かすると思ってるの?」
悪い妄想をしているのだろう、蓮歌は怯え切った瞳を向けながらこくこくと頷く。面白くも楽しくもない時に笑うのは正直苦手だけど、蓮歌を安心させるために、蓮歌が先生に対して抱いている大きな誤解を解くために、私は口角を上げて精一杯微笑んだ。
「蓮歌。沖野先生はそんな人じゃないよ。悪い人でも怖い人でもない。無理に好きにならなくていいし嫌いなままでもいいけど、どうかそれだけは……誤解しないで欲しいな」