花咲さんは僕から視線を逸らした。

 花咲さんの様子がおかしい……。

 花咲さんの表情は、どこか悲し気に見えた。


「……どうしたの? 花咲さん。
 僕、何かまずいことを言ってしまった?」


 僕は慌てて花咲さんにそう訊いた。


「ううん、そうじゃないの。ただ……」


「……ただ……?」


「私は……来年の今頃は……
 ……ここにはいない……と思うから……」


 え……。


「……いっ……いないって……⁉」


 どういう意味……?


「……あっ……えっとね……」


 とても言いづらいのか。
 花咲さんは、ものすごく困った様子に。


 花咲さんの様子を見ていると。
 これ以上、訊かない方がいいのかもしれないと思った。

 けれど……。


「……また……転校……しちゃうの……?」


 どうしても。
 訊かずにはいられなかった。

 だって……。


『来年の今頃は、ここにはいない』


 そんなことを言われて気にならないわけがない。


「…………」


 僕の質問に無言の花咲さん。

 やっぱり言いづらいのだろうか。


 ……‼

 もしかして……‼

 言いづらいのは……‼


「……まっ……まさか……
 何か重い病気……とか……?」


 また訊いてしまった。

 でも、やっぱり気になるから。


「それは違うよ」


 それには花咲さんは強く否定した。


「……じゃあ……」


『来年の今頃は、ここにはいない』


 その言葉は他にどういうふうに解釈すればいいの……?


「草野くん……」


「……うん……?」


「……時期が……来たら……言うね……」


 時期が来たら……?


「……うん……わかった……」


 本当は、ものすごく気になった。

 けれど、言うことを拒んでいる花咲さんに無理やり訊くわけにはいかない。


 僕は時期が来るまで待つことにした。