「あの、ロランド様」
 帰ろうとしたロランドは再び声をかけられた。ロランドを様付けで呼ぶのは、クラス一では一人しかいない。

「私にも会計学を教えていただけないでしょうか」

 マリルだった。
 フェリッサがいない今、本音を言えばさっさと帰りたい。だけど、彼女には勉強を教えたのに、このマリルに教えないという差別的な行為はどうなのだろう、と自分でも思う。

「ああ、問題ない」

「あの、隣に座ってもよろしいでしょうか」

 わざわざ尋ねてくるそれが、フェリッサとは違う行動で、ロランドは彼女にいじわるを仕掛けたくなった。

「隣に座らなかったら、立って勉強をするのかい?」

「いえ、ですが」

「何も遠慮する必要はない。俺たちは、同じクラス一の生徒なのだから」

 マリルはロランドのその言葉に安心したのだろう。失礼します、と頭を下げて彼の隣に座った。
 マリルからはフェリッサとは違う匂いがした。それは、柑橘系の鼻腔をくすぐるような香り。