攻略対象ではないロランドを落とすのは大変だった、と今でも思う。
 会計学を教えてもらうところから接触を試みてみたものの、各ルートの分岐イベントというものからは逃げられないだろう、と思っていた。それは今までの経験によるもの。

 だから、裏庭で一人、魔法の練習をしていたとき。
 いつナイチェルがやってくるか、と冷や冷やしていたものだ。だけど、そこに現れたのがロランドだった。別れ際についつい御礼が口を告いで出てしまった。きっとロランドは不思議に思ったに違いない。
 それは、ナイチェルではなくロランドが来てくれてありがとう、の意味だったから。
 光の精霊との契約のときも、本来はナイチェルが言うはずだったセリフを、全てロランドが言った。だから、マリルは言った。
『それが私にとって嬉しいことであることを、ロランド様はお気付きになられていないのですね』と――。

 次のパトリックルートも、本来はパトリック以外の魔法が暴走するはずだった。だが、マリルは攻撃魔法の協力者の相手としてロランドを指名した。パトリックルートであるならば、ここでパトリックを指名しなければならない。だから、敢えてロランドを指名したのだ。ここで指名した人間が、その攻略ルートになるはずだ、と思ったから――。
 そして見事、彼はマリルを助けてくれた。これでパトリックルートも回避できた。

 続いてのジュリアスルート。
 あの植木鉢分岐のときに、近くに誰もいなかったから焦った。だから遠くからロランドが風の魔法で助けてくれるとは思ってもいなかった。隣にジュリアスはいたようだけれど、あの距離からでは間に合わなかったらしい。
 それでもロランドが駆けつけてくれて、ぎゅっと抱きしめてくれた時には背中に手を回したくなった。それをぐっと耐えた。

 最後のアーサールート。
 ロランドはあまり図書室に足を運ぶ人間ではなかった。それでも、なぜかあのとき図書室に現れた。マリルが届かない本を取ってくれたし、だからマリルも彼が探している本を教えてあげた。その結果が――。