「ああ、さすがロランド。とてもわかりやすいわ」

「フェリッサは難しく考えすぎるんだ。今のやり方でこっちの問題を解いてみて」
 ロランドが言うと、フェリッサは教科書を睨み、ノートにペンを走らせる。それは、止まることなく、すらすらと。

「できた」

「うん、正解だ」

 ロランドが言うと、フェリッサは顔中に喜びを浮かべた。できなかったものができるようになった喜びだ。
 ロランドも違う喜びを顔に浮かべた。それは、今日はフェリッサと二人で話をすることができた、という喜び。

「ああ、フェリッサ。こんなところにいたのか」
 ロランドの喜びを打ち破るかのように、声が割り込んできた。

「あ、ナイチェル様」
 フェリッサが、また先ほどとは違う喜びの笑みを顔に浮かべた。
 この喜びは、好きな人に会えた喜びだ。
 彼女をよく見ているロランドだからこそ、わかる。
「今、ロランドに会計学を教えてもらっていたところです」

「ナイチェル様も一緒にどうですか?」
 ロランドはわざとそう言った。

 ぶんぶん、とナイチェルは大袈裟に首を横に振る。
「学年首席に教えてもらうなんて、恐れ多いな」

「ナイチェル様。それは、勉強したくないがための言い訳ですね」

「ばれたか、さすがだなロランド」

「ばれるも何も。ナイチェル様の性格を把握しているだけですよ」

 ロランドは悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべた。それに引き換え、ナイチェルは悪戯に失敗した子供のような表情だった。