マリルがいた。確かこの棚は魔法史。彼女は背伸びして、高いところにある本を取ろうとしているらしい。

「マリル嬢」
 ロランドが小さく声をかけると、彼女は肩をピクリと震わせてから振り向いた。突然声をかけられたことに驚いたのだろう。だけど、その呼び方で誰が声をかけたのかを察したようだ。

「ロランド様」

「本が届かないのか?」
 尋ねると恥ずかしそうに頷く。

「どれだ?」

「その、青い背表紙の魔法史の本を」

「これか?」

 ロランドはひょいとその本を手に取ると、彼女に手渡した。
「ありがとうございます」

「届かないときは、あちらにある台を使うか、図書室の係の者に頼むといい」

「はい」
 本を両手で抱え、恥ずかしそうに俯く。

「マリル嬢。君に少し話したいことがあるのだが、これから時間は取れるだろうか」
 ロランドは小声で尋ねた。
「え」
 驚いて顔をあげたマリルだが、ゆっくりと頷く。

「では、俺も本を借りたいものがあるから、それが終わったら」

「ロランド様はどのような本をお探しですか?」

「心理学を」

「でしたら、こちらです」

 マリルに案内されたことによって、ロランドは難なくお目当ての本を借りることができた。

 図書室で彼女と出会うのはアーサールートのイベント。