今日の授業が終わり、さっさと帰ろうと思っていたロランドが静かに席を立つと、声をかけられた。

「ロランド、先ほどの授業でわからないところがあるの。それで、教えていただきたいのだけれど」

 胸元で教科書とノートをしっかりと抱えて、声をかけてきたのはフェリッサだった。
「今、お時間空いてるかしら?」
 首を傾けて、そんなことを言う。

「ああ、俺の方は問題ない。だけどフェリッサは、これから王太子妃教育があるのではないか?」

「ええ、でも今日は中止になったみたいなの。だから、あなたから勉強を教えてもらうなら今しかないと思って」
 はにかんだような笑みを浮かべる。

 フェリッサは勉強熱心だ。自分のやるべきことをよく理解しているのだろう。王太子妃として、そして未来の王妃として。

「場所は? この教室でいいか?」

「ええ」
 ロランドは再び椅子に座った。その隣にフェリッサも座る。

「わからないところはどこだ? 君は数字が苦手なようだが」

「そうなの、ロランド。先ほどの会計学の授業の」

 教科書を広げるフェリッサからは、甘い香りが漂ってきた。
 彼女の匂い。
 ロランドが好きな、彼女の香り。