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「婚約者、ですか?」
 珍しく父親と一緒に夕食をとっていると、唐突にそんなことを言われた。だから今日は帰って来るのが早かったのか、と思った。

「ああ、お前もいい年だし。そろそろ婚約者を決めてはどうだろうか」

「そうですね。ですが、父さんの立場を考えると文官の関係者である人間がいいのではないでしょうか」

 ロランドが言うと、父親は唇の端をあげた。
「お前のその頭の回転の速さには、参るな」
 ほんのりと苦笑を浮かべている。
「いくつか身上書がある。それに目を通しておいてくれ」

「でしたら、まずは文官の家柄にだけ絞ってください。そこから選びますから」

「まあまあ。見るだけは自由だ。そう言わず、目を通してくれ」

「時間の無駄です」

「その合理的な考え方は嫌いではない。だが、人の気持ちというのは大事にしたいと思う」

 父親のその言葉は、ロランドの心の奥底に仕舞い込んだ気持ちをグサリと刺した。
 大事にしたいと言われても、どうしようもない気持ちというものがあるじゃないか。フェリッサと結婚したいと言ったら、認めてくれるのか。

 飲み込んだ肉が喉に詰まりそうになりながら、通り抜けていく。隠していたフェリッサへの気持ちが、胸の底から湧き出してきたからだろうか。無理やり肉を飲み込みながら、その気持ちも飲み込んだ。