優しい風の音。
 そう表現されたのは初めてだった。

「光の精霊との契約はなかなか難しいと聞くが、君なら大丈夫だろう」
 ロランドが目を細めて言うと、マリルは少し頬を染めた。二人の間をサワサワと風が通り抜けていったのは、ロランドの魔法のせいかもしれない。
 その風にのって「マリルー」と呼ぶ声が聞こえてきた。

「友達が呼んでいるのではないか?」

「え、えと。はい」

「友達は大事にした方がいい」
 その言葉はロランド自身にも言い聞かせる言葉。

「あの、ロランド様」
 その場を立ち去ろうとするマリルが、振り返って彼に声をかけた。
「ありがとうございます」
 なぜかその言葉を残していく。
 礼を言われるようなことを何かしただろうか、とロランドは考え込んだ。そして、彼女が立ち去ったその場に、一枚のハンカチが落ちていることに気付いた。

 マリルの名前が刺繍されたハンカチ。これは、ナイチェルルートのための必須アイテム。

 そのハンカチを、綺麗に折りたたんでからポケットにしまうと、ロランドもその場を立ち去った。