裏庭に行くと、そこにはマリルが一人でいた。人目につかないこの場所。彼女は何をしているのか。知っているにも関わらず、ロランドは目が離せないでいた。
 高等部の三学年というものは、学園生活における最終学年だ。その最終学年において、生徒たちはとうとう精霊との契約を行う。精霊には風、火、地、水、光、闇の六種類があり、その契約を結んだ精霊の属性の魔法だけを今後使うとされている。だから、魔導士団長の息子のパトリックのように、今、風火地水と四属性使える者は、四種類の精霊と契約をする。

 マリルの属性は、光だった。光属性と闇属性は、稀だと言われている。光属性は人に生をもたらし、闇属性は死をもたらすと言われている。光と闇。対になる存在。パトリックでさえ、その二属性は使うことができない、というのに。

 カサリと、芝生を踏んだ音が彼女の耳に届いたらしい。
 驚いて、彼女は振り向く。

「あ、ロランド様」
 はにかんだような笑みを浮かべ、マリルは彼の名を呼んだ。

「やはり、君は光属性の持ち主だったのか」
 そう。だから彼女はヒロイン。人に生をもたらす少女だから。

「あ、はい」
 恥ずかしくなったのか、彼女は視線を下に向けた。

「光属性が珍しいことは知っているだろう?」
 ロランドのその言葉に頷く。
「だから、自信を持った方がいい。精霊との契約は五日後だ」

「あの、ロランド様は?」
 その問いは、ロランドの属性を聞いているのだろうか。

「俺? 俺は風だ」

「だから、ロランド様からは、優しい風の音がするのですね」