「おはようございます、ナイチェル様。会計学の宿題は忘れませんでしたか?」

 今朝がた見た夢のせいで、やや寝不足ではあるロランドだが、そんな素振りは見せない。いつもの軽口で、ナイチェルに声をかける。

「まったく、ロランド。君のおかげで昨日はフェリッサと一緒に会計学の宿題で終わってしまったではないか」

「それは、それは。とても有意義な時間を過ごされたようで、何よりです」

 ナイチェルが望んだ時間の過ごし方ではないことをわかっていて、ロランドはそんなことを言う。だから、ナイチェルは朝から不機嫌。

「おはようございます、ナイチェル様。ロランド、昨日はありがとう。おかげで会計学の宿題は簡単に解けたわ」

「それを不愉快に思っている人間がこちらにはいるようですよ。ナイチェル様のご機嫌取りはフェリッサに任せても良いかな?」

 ロランドは余裕のある笑みを浮かべた。その言葉にフェリッサはニコリと笑んでから、そっとナイチェルの隣の席に腰をおろす。
 そんな二人をそっと見守りながら、自席につこうとすると。

「おい、ロランド」
 騎士団長の息子であるジュリアスに、こいこい、と右手を振られた。さすが騎士団長の息子。彼は身長が高いだけでなく、その上半身もがっちりとしていて、短く刈られている赤い髪が、彼の魅力を引き立てている。

「俺にも会計学の宿題を教えてくれ」

「ジュリアスが真面目な顔をして何を言い出すのかと思ったら、そんなことか」

「お前にとってはそんなことだが、俺にとっては一大事だ。数字を見ていると眠くなるのはなぜだ」
 そんなことを真顔で言い出したので、ロランドはぷっと吹き出した。