まだ辺りは薄暗い。夜明け前。
 寝間着のまま机の前に座る。この世界に電気・ガス・水道はない。その代わりに魔法がある。それは生活魔法と呼ばれるもの。
 その魔法で机の上の小さな明かりを灯した。

 机の引き出しの鍵を開け、一冊のノートを取り出す。それを机の上に広げる。
 これは、ロランドの日記帳。言えない想いを綴ったもの。死ぬまで誰にも言えない想い。死んでも誰にも伝えられない想い。この想いを失ったときに、この日記帳は跡形もなく燃やす、ということを心に決めている。

 開いたノートは橙色の光によって、淡く照らされていた。

 思い出した内容を書き出す。

 ヒロイン、マリルが王太子ナイチェルとエンディングを迎えた場合。悪役令嬢フェリッサは処刑。これが一番のバッドエンドだ。
 断頭台で彼女は高らかに笑って処刑される。
 思い出しただけでもぶるっと肩が震えてしまう。あの映像美は、制作会社の渾身の作といっても過言ではないのだが、あれのためにこのゲームの年齢別区分表は十五歳以上のCである。

 続いて、マリルが騎士団長の息子ジュリアスと結ばれた場合。国外追放で国境をさ迷うフェリッサの後姿がエンディングにあったような気がする。哀愁漂う後ろ姿、ではなく、怒りに満ちている後ろ姿。変なオーラが漂っていたような。