そんなにスカイだけを床で寝かせるのが申し訳ないのだろうか。
気遣いやさんのフォルテらしいなぁと、ちょっと苦笑する。
「ねえ、スカイも一緒に寝ようよ。お布団で」
フォルテの大きな瞳にじっと見つめられて、スカイが掛け布団にするべく引っ張り出していた毛布を握りしめたまま固まる。
「い、いや……俺は床でいいから……さ?」
「えぇぇー……」
引きつった笑顔で断られて、フォルテが不満の声をあげる。
「ほら、ラズも寝る場所少なくなって困るだろ?」
スカイがそんなフォルテにせっせと言い訳をする。
フォルテと一緒に寝るのが嫌だって言ってるわけじゃないよ。という事か。

それを聞いて、フォルテがパッとこちらを振り返る。
私は、壁に寄り添うように、ベッドに半分潜り込んだところだった。
「ラズ、三人だと寝られない……?」
この、フォルテのうるうるとした瞳で懇願するように見つめられては、心当たりが何も無くとも罪悪感を感じずにはいられない。
「わ、私は別に、大丈夫だよ?」
あははと乾いた笑いを返すと、フォルテがぱあっと破顔した。
「スカイ、ラズ大丈夫って!!」
期待に満ちた瞳で見つめられて、スカイの笑顔がさらに引きつる。
「いや、その……ちょ、ねーちゃんっ!」
スカイが助けを求めた相手は、既にこちらに背中を向けていた。
「もー……、あんたたちの好きにしなさいよ……」
面倒くさそうに、半分眠りにつきかけた声が返事をする。
「私は寝るから。あんまり煩く叫ばないのよ?」
テンションの高くなりつつあるフォルテとスカイに釘を刺して、デュナは「三人とも、おやすみ」と布団を首元まで掛け直した。
その背に「おやすみ」と声をかける。

「うう……」
完全に追い詰められた体のスカイを、それに全く気付いていないようなフォルテがにこにこと見つめている。
なんだろう。この不思議な光景は。
「ラ、ラズからも何とか言ってくれよ……」
見つめ合いに負けたのか、スカイがこちらに助けを求めてくる。
「何を?」
布団の中から、そのまま返事をする。
もう起き上がって顔を見るのが面倒だった。
一日歩いた体は、鉛のように重く布団に沈み込もうとしている。
「いや、だって……ラズはいいのか? 良くないだろ??」
「何が……?」
何を言いたいのかさっぱりだ。
もしかしたら、もう私も眠気で頭が回っていないのかな……。
眠りの淵に引き擦り込まれかけている私に気付いたのか、味方が誰もいなくなる恐怖からか、スカイが珍しく焦りを露わにして話している。
「そ、その……っっ年頃の、男女が、同じ布団で寝るとか、さぁ……っっ」
あ。起き上がっていればよかったかも。とちょっと後悔する。
スカイは今きっと真っ赤だろう。
珍しい姿を見逃したこと悔やみつつも、もう今さら起き上がる気はなかった。
「そういうことなら気にしなくていいよ。私も全然気にしてないから」
簡単に返事をすると、ベッドの上でフォルテが動いた気配がした。
「ほら、スカイ、おいでよ」
どうやらスカイの手を引いているようだ。
「う、ううう……」
しばらくまた見つめ合っていたようだが、結局負けたのはスカイだった。
むしろ、あの大きな瞳にじっと見つめられて、勝てる人なんていない気がする。
「……くそぅ、わかったよ……。もう、俺は知らないからな?」
何をどう知らないのか理解できないのだが、おそらくスカイの精一杯の捨て台詞だったのだろう。
「うん♪」
フォルテが心底嬉しそうに、私の隣に潜り込んで来る。
嫌そうなスカイには悪いが、フォルテがこんなに嬉しそうな事が、私には嬉しかった。
「よかったね。フォルテ」
「うん、よかった♪」
フォルテがにこにこと満足そうな笑顔を見せる。
その頭を三度も撫でると、すぐにとろんとした瞳になった。

お風呂でも、うとうとしていたくらいだ。
もう眠くてたまらないだろう。
「おやすみ、フォルテ。スカイ」
フォルテが目を閉じたのを見て、ちらりと視線を上げるとスカイと目が合った。
スカイは、耳まで真っ赤にしている。
あ。まだ赤かったんだ。茹で蛸みたいだなぁ。
と思ってから、その頭のクジラが目に付いた。
「スカイ、バンダナ取らないの?」
早くも、すぅすぅと寝息をたて始めたフォルテの邪魔にならないように、なるべく小さな声で囁く。
スカイはほんの少し考えるように視線を彷徨わせてから、
「……ああ」
とだけ答えた。

寝るときも付けっぱなしだなんて、そのうち禿げそうだなぁと思いつつも、口を閉じる。
スカイの青い髪や、デュナより少し濃いラベンダー色の瞳は、間近で見るとさらにキラキラと透き通って綺麗だった。

「じゃあ、明かり消すな」
二つのベッドから手が届くようにか、真ん中の小さなサイドテーブルに置かれていたランプにスカイが手を伸ばす。

返事をするかわりに、私は目を閉じた。