ゆっくりとした動作で伸びをして、静かに目を開いたフィーメリアさんが、私達を見て、これまたゆっくりと首を傾げる。
ライムグリーンの髪に、それより少し濃い瞳は、ファルーギアさんとほとんど同じ色合いだった。
ファルーギアさんを見ている限りでは、儚げな印象を受けたそれらの淡い色も、フィーメリアさんにかかるとなんだか力強く見える。
「あのう……どちら様でしょう……?」
その声は、体格にそぐわない、コロコロした響きの甘い声だった。
「ああ、姉さん、こんなにやつれてしまって……」
ファルーギアさんがベッドに駆け寄る。
連れ帰ったときよりは、確かに痩せてしまったフィーメリアさんだったが、ファルーギアさんと並ぶと、その横幅には三倍以上の差があった。
いや、ファルーギアさんは小柄で華奢な体型を隠すかのように、だぼっと服を着てあれなのだから、実際には四倍以上の差かも知れない……。
「あらホント、なんだか体が軽いわ」
悲しそうなファルーギアさんをよそに、嬉々として体を動かすフィーメリアさんに、デュナが「急に動かない方がいいわ」と声をかける。
長期間眠り続けていたせいで筋力は相当落ちているはずだ。
歩行も、最初は困難かもしれない。
簡単なリハビリの手順を説明するデュナの言葉を、ふむふむと大人しく聞き終えてから、フィーメリアさんはベッド脇でそれらをメモしていたファルーギアさんを見上げた。
「ファル、この方々は?」
そこでやっと、ファルーギアさんから私達の紹介が入る。
彼の紹介は柔らかく好意的な内容で、聞いていて嬉しいような、恥ずかしいような気分になった。
特に、デュナに対して大いに尊敬の念を抱いているようだ。
三人の紹介が終わると、フィーメリアさんが小さく首を傾げた。
「もう一人……いらっしゃるんじゃないかしら?」
慌ててファルーギアさんがフォルテの紹介をする。
この場にはいないけれど。と補足を入れて。
今目を覚ましたばかりの人が、何故フォルテの事を知ってるんだろう。
「大きな力に守られた、小さなお嬢さん。ね。一度お会いしてみたいわ」
「大きな力……?」
その呟きは、私ではなくデュナから零れた。
「ええ、有益な神様の強い加護があるような気配を感じるわ。ええと、そのあたりから……」
と天井へ指を差す、斜め上に上げられた指の先は、正確に二階で寝ているフォルテの辺りを指していた。
デュナが何かを言おうと息を吸った瞬間、フィーメリアさんのお腹が盛大な音を立てた。
あまりの轟音に、全員が苦笑する。
フィーメリアさんだけは、赤くなって俯いてしまったが。
もう何日も食べていないのだから、当然だろう。
「お腹の動きは十分活発なようだけど、まずは消化に良い物から始めた方がいいわ」
と、デュナが部屋を出る。
大慌てでご飯の手配に行ったファルーギアさんの後を追いかけて行ったようだ。
部屋には私、スカイ、フィーメリアさんの三人が残された。
「フィーメリアさん、有益な神様っていうのは、どういうもの……なんですか?」
間を置かず、スカイが話を戻す。
「うーん、その子の顔を見て、占ってみれば分かると思うのだけど……」
困った顔で首を捻るフィーメリアさん。
一瞬の沈黙に、デュナの声が、廊下から遠く聞こえる。
途中でファルーギアさんに追いついたのか、メニューを提案しているようだった。
と、近くで響くお腹の音。それに重なるスカイのあくび。
とにかく、話はご飯と休息を済ませてからがいいだろう。
私としても、非常に気になる内容ではあったが、全身からのんびりとした空気を放出していてるフィーメリアさんを見ていると、そう急がなくてもいいような気がしてきた。
「私、ひとまず白湯を貰ってきますね」
あ。重湯のほうがいいかな……?
キッチンに行く途中にはデュナも居るはずだし、聞いてみることにしよう。
私は、まだ恥ずかしそうにしているフィーメリアさんに挨拶をすると、部屋を出た。
「ラズ」
その声に振り返ると、スカイはまた大あくびをしていた。
「俺も、ちょっと寝てくるな。話を聞くときには起こしてくれるか?」
「うん、分かった。デュナとファルーギアさんも睡眠をとると思うから、ゆっくり寝てていいかもね」
「おぅ。おやすみ」
ひらひらと手を振って、スカイが背を向ける
「おやすみ」
私の声に、再度手を上げると、そのままおぼつかない足取りで階段を上がっていった。
フィーメリアさんの食事を見届けると、やはりデュナとファルーギアさんは布団に潜ってしまった。
時刻はやっと六時になろうかというところだったが、フィーメリアさんまでもが、体力が低下しているためか眠そうにしている。
私は、このまま夜まで起きていられそうではあったが、あまり皆と起床時間がずれるのもよくないだろうし、皆に付き合ってもう一眠りすることにしようか。
そうして、全員がフィーメリアさんの部屋に揃ったのは昼を回った頃だった。
ライムグリーンの髪に、それより少し濃い瞳は、ファルーギアさんとほとんど同じ色合いだった。
ファルーギアさんを見ている限りでは、儚げな印象を受けたそれらの淡い色も、フィーメリアさんにかかるとなんだか力強く見える。
「あのう……どちら様でしょう……?」
その声は、体格にそぐわない、コロコロした響きの甘い声だった。
「ああ、姉さん、こんなにやつれてしまって……」
ファルーギアさんがベッドに駆け寄る。
連れ帰ったときよりは、確かに痩せてしまったフィーメリアさんだったが、ファルーギアさんと並ぶと、その横幅には三倍以上の差があった。
いや、ファルーギアさんは小柄で華奢な体型を隠すかのように、だぼっと服を着てあれなのだから、実際には四倍以上の差かも知れない……。
「あらホント、なんだか体が軽いわ」
悲しそうなファルーギアさんをよそに、嬉々として体を動かすフィーメリアさんに、デュナが「急に動かない方がいいわ」と声をかける。
長期間眠り続けていたせいで筋力は相当落ちているはずだ。
歩行も、最初は困難かもしれない。
簡単なリハビリの手順を説明するデュナの言葉を、ふむふむと大人しく聞き終えてから、フィーメリアさんはベッド脇でそれらをメモしていたファルーギアさんを見上げた。
「ファル、この方々は?」
そこでやっと、ファルーギアさんから私達の紹介が入る。
彼の紹介は柔らかく好意的な内容で、聞いていて嬉しいような、恥ずかしいような気分になった。
特に、デュナに対して大いに尊敬の念を抱いているようだ。
三人の紹介が終わると、フィーメリアさんが小さく首を傾げた。
「もう一人……いらっしゃるんじゃないかしら?」
慌ててファルーギアさんがフォルテの紹介をする。
この場にはいないけれど。と補足を入れて。
今目を覚ましたばかりの人が、何故フォルテの事を知ってるんだろう。
「大きな力に守られた、小さなお嬢さん。ね。一度お会いしてみたいわ」
「大きな力……?」
その呟きは、私ではなくデュナから零れた。
「ええ、有益な神様の強い加護があるような気配を感じるわ。ええと、そのあたりから……」
と天井へ指を差す、斜め上に上げられた指の先は、正確に二階で寝ているフォルテの辺りを指していた。
デュナが何かを言おうと息を吸った瞬間、フィーメリアさんのお腹が盛大な音を立てた。
あまりの轟音に、全員が苦笑する。
フィーメリアさんだけは、赤くなって俯いてしまったが。
もう何日も食べていないのだから、当然だろう。
「お腹の動きは十分活発なようだけど、まずは消化に良い物から始めた方がいいわ」
と、デュナが部屋を出る。
大慌てでご飯の手配に行ったファルーギアさんの後を追いかけて行ったようだ。
部屋には私、スカイ、フィーメリアさんの三人が残された。
「フィーメリアさん、有益な神様っていうのは、どういうもの……なんですか?」
間を置かず、スカイが話を戻す。
「うーん、その子の顔を見て、占ってみれば分かると思うのだけど……」
困った顔で首を捻るフィーメリアさん。
一瞬の沈黙に、デュナの声が、廊下から遠く聞こえる。
途中でファルーギアさんに追いついたのか、メニューを提案しているようだった。
と、近くで響くお腹の音。それに重なるスカイのあくび。
とにかく、話はご飯と休息を済ませてからがいいだろう。
私としても、非常に気になる内容ではあったが、全身からのんびりとした空気を放出していてるフィーメリアさんを見ていると、そう急がなくてもいいような気がしてきた。
「私、ひとまず白湯を貰ってきますね」
あ。重湯のほうがいいかな……?
キッチンに行く途中にはデュナも居るはずだし、聞いてみることにしよう。
私は、まだ恥ずかしそうにしているフィーメリアさんに挨拶をすると、部屋を出た。
「ラズ」
その声に振り返ると、スカイはまた大あくびをしていた。
「俺も、ちょっと寝てくるな。話を聞くときには起こしてくれるか?」
「うん、分かった。デュナとファルーギアさんも睡眠をとると思うから、ゆっくり寝てていいかもね」
「おぅ。おやすみ」
ひらひらと手を振って、スカイが背を向ける
「おやすみ」
私の声に、再度手を上げると、そのままおぼつかない足取りで階段を上がっていった。
フィーメリアさんの食事を見届けると、やはりデュナとファルーギアさんは布団に潜ってしまった。
時刻はやっと六時になろうかというところだったが、フィーメリアさんまでもが、体力が低下しているためか眠そうにしている。
私は、このまま夜まで起きていられそうではあったが、あまり皆と起床時間がずれるのもよくないだろうし、皆に付き合ってもう一眠りすることにしようか。
そうして、全員がフィーメリアさんの部屋に揃ったのは昼を回った頃だった。