太陽は既に真上近くへ昇っていて、窓からは明るい光が差し込んでいる。
いくらか整えられた庭の向こうには林が広がっていて、遺跡上の丘が、ほんの少しだけ隙間から窺い見える。
ソファに座っているフォルテは、ポーチから小さなメモ帳とペンを取り出して、なにやらあれこれと思い出してはそれに書き込んでいる。
聞けば、今までに読んだ続き物の本で、続きが気になっているお話のタイトルと著者のメモだそうだ。
ほとんどは見覚えのあるタイトルで、私達の家にフォルテがやってきてから読んだもののようだったが、時々、見たことも聞いたこともない名前が混ざっている。
「これとかこれは、フォルテが自分のお家にいた頃に読んだものなのかな」
指して聞いてみると、
「そうなの? うーん、そっか。そうなんだ……」
と、的を得ない返事が返ってきた。
このふわふわのプラチナブロンドを纏った砂糖菓子のような女の子は、まだ十二歳。
一般的には、まだ学校に通っている歳だ。
とは言え、学校は無償で通えるところではなかった。
施設に入れられれば、それはそれで職員が読み書きなどを教えてくれるだろうが、フォルテは既に読み書きも、計算も、それなりの常識も、身につけていた。
フォルテの両親が教えたものなのか、学校に通っていたのかまでは分からなかったが、おそらく後者ではないだろうか。
この子は、学校に行きたいと言う事こそ無かったが、学校とは何かと尋ねることもなく、その仕組みを理解しているようだったからだ。
今でも、フォルテを学校に通わせてあげる方が良いのではないかと時々思う。
当のフォルテは、私達と一緒に居たいのだと言ってくれるが、それは、他に知り合いも頼る人もないが為に、選択の余地が無いだけではないのだろうか。
とん。と肩に手を置かれる。
窓のそばに立っていた筈のスカイが、いつの間にか背後まで来ていた。
ああ、また深刻な顔をしてしまっていたのかな……。
慌てて顔を両手で覆うと、フォルテが「どうしたの?」と声をかけてきた。
「うーん……。眠いね……」
と返すと、あくびでもしていたのかと思ったようで
「デュナ達、遅いね」
と返事をしてくれた。
「俺はそれより腹減ったよ……」
スカイが私の後ろ側、ソファーの背もたれの裏に寄りかかって呟く。
「確かに、お腹も減ったね」
部屋にかけられた時計を見上げると、時刻は既にお昼を回っている。
そういえば、私もスカイ達の家に預けられた十歳までは、両親の冒険に付いて回っていたので、学校にも通っていなかったわけで……。
両親から勉強らしいものもほとんど教わっておらず、通い始めた当初は、授業に付いていくのに相当苦労をした。
幸い、デュナという良い教師が家に居てくれた為、一年も経つ頃には周りに追いつくことができたが。
そんな私が、十二歳当時の私よりずっと勉強のできるフォルテの事を、学校に通っていないと心配するのもどうなんだろうか。
なんだかおかしな話に思えて、苦笑を漏らす。
顔を上げると、鮮やかな笑みを浮かべたスカイと目があった。
も、もしかして、一人で苦笑していたところを見られてしまっただろうか。
ぽんぽんと満足気に私の後頭部を撫でてから、スカイがテーブルを挟んだ向かいのソファーへと移動する。
恥ずかしさに顔が熱くなってきた頃、デュナとファルーギアさんが部屋へ入ってきた。
結局、ブラックブルーからは市販の解毒剤で対応できそうな成分も検出できず、私達は、はたから見てもしょんぼりしているファルーギアさんと共に、お屋敷で遅めの昼食を取る事になる。
ファルーギアさんは昼食後、本格的にブラックブルーを調べてみると言ってお屋敷の研究室に篭ってしまった。
結果的に、四人が揃って図書館に足を踏み入れたのは十四時過ぎの事だった。
「まあ、そこまで珍しいものでもないんだろ? ラズが知ってるって事だしさ」
後ろから聞こえてきたスカイの言葉に同意する。
「うん、きっと実を食べちゃったときの対処法とかが載ってる本があると思う」
図書塔はいくつかの塔が中央の大きな塔に張り付くような形で広がっている。
二階にある入り口まで、歴史を感じさせる石の階段を上ってゆく。
フォルテには、一段の幅が広くて歩きづらそうだ。
「あんたたち、館内では静かにするのよ」
先頭を歩くデュナが、入り口の大きな扉を前にして釘を刺す。
「はーい」と口々に返事をして、スカイの開いた重そうな扉の中へと進む。
珍しく、私より前をぴょこぴょこ歩くフォルテの後ろ姿を眺めながら、
まずは児童書のあたりへ連れて行ってあげようと思った。
いくらか整えられた庭の向こうには林が広がっていて、遺跡上の丘が、ほんの少しだけ隙間から窺い見える。
ソファに座っているフォルテは、ポーチから小さなメモ帳とペンを取り出して、なにやらあれこれと思い出してはそれに書き込んでいる。
聞けば、今までに読んだ続き物の本で、続きが気になっているお話のタイトルと著者のメモだそうだ。
ほとんどは見覚えのあるタイトルで、私達の家にフォルテがやってきてから読んだもののようだったが、時々、見たことも聞いたこともない名前が混ざっている。
「これとかこれは、フォルテが自分のお家にいた頃に読んだものなのかな」
指して聞いてみると、
「そうなの? うーん、そっか。そうなんだ……」
と、的を得ない返事が返ってきた。
このふわふわのプラチナブロンドを纏った砂糖菓子のような女の子は、まだ十二歳。
一般的には、まだ学校に通っている歳だ。
とは言え、学校は無償で通えるところではなかった。
施設に入れられれば、それはそれで職員が読み書きなどを教えてくれるだろうが、フォルテは既に読み書きも、計算も、それなりの常識も、身につけていた。
フォルテの両親が教えたものなのか、学校に通っていたのかまでは分からなかったが、おそらく後者ではないだろうか。
この子は、学校に行きたいと言う事こそ無かったが、学校とは何かと尋ねることもなく、その仕組みを理解しているようだったからだ。
今でも、フォルテを学校に通わせてあげる方が良いのではないかと時々思う。
当のフォルテは、私達と一緒に居たいのだと言ってくれるが、それは、他に知り合いも頼る人もないが為に、選択の余地が無いだけではないのだろうか。
とん。と肩に手を置かれる。
窓のそばに立っていた筈のスカイが、いつの間にか背後まで来ていた。
ああ、また深刻な顔をしてしまっていたのかな……。
慌てて顔を両手で覆うと、フォルテが「どうしたの?」と声をかけてきた。
「うーん……。眠いね……」
と返すと、あくびでもしていたのかと思ったようで
「デュナ達、遅いね」
と返事をしてくれた。
「俺はそれより腹減ったよ……」
スカイが私の後ろ側、ソファーの背もたれの裏に寄りかかって呟く。
「確かに、お腹も減ったね」
部屋にかけられた時計を見上げると、時刻は既にお昼を回っている。
そういえば、私もスカイ達の家に預けられた十歳までは、両親の冒険に付いて回っていたので、学校にも通っていなかったわけで……。
両親から勉強らしいものもほとんど教わっておらず、通い始めた当初は、授業に付いていくのに相当苦労をした。
幸い、デュナという良い教師が家に居てくれた為、一年も経つ頃には周りに追いつくことができたが。
そんな私が、十二歳当時の私よりずっと勉強のできるフォルテの事を、学校に通っていないと心配するのもどうなんだろうか。
なんだかおかしな話に思えて、苦笑を漏らす。
顔を上げると、鮮やかな笑みを浮かべたスカイと目があった。
も、もしかして、一人で苦笑していたところを見られてしまっただろうか。
ぽんぽんと満足気に私の後頭部を撫でてから、スカイがテーブルを挟んだ向かいのソファーへと移動する。
恥ずかしさに顔が熱くなってきた頃、デュナとファルーギアさんが部屋へ入ってきた。
結局、ブラックブルーからは市販の解毒剤で対応できそうな成分も検出できず、私達は、はたから見てもしょんぼりしているファルーギアさんと共に、お屋敷で遅めの昼食を取る事になる。
ファルーギアさんは昼食後、本格的にブラックブルーを調べてみると言ってお屋敷の研究室に篭ってしまった。
結果的に、四人が揃って図書館に足を踏み入れたのは十四時過ぎの事だった。
「まあ、そこまで珍しいものでもないんだろ? ラズが知ってるって事だしさ」
後ろから聞こえてきたスカイの言葉に同意する。
「うん、きっと実を食べちゃったときの対処法とかが載ってる本があると思う」
図書塔はいくつかの塔が中央の大きな塔に張り付くような形で広がっている。
二階にある入り口まで、歴史を感じさせる石の階段を上ってゆく。
フォルテには、一段の幅が広くて歩きづらそうだ。
「あんたたち、館内では静かにするのよ」
先頭を歩くデュナが、入り口の大きな扉を前にして釘を刺す。
「はーい」と口々に返事をして、スカイの開いた重そうな扉の中へと進む。
珍しく、私より前をぴょこぴょこ歩くフォルテの後ろ姿を眺めながら、
まずは児童書のあたりへ連れて行ってあげようと思った。