なんとはなしに、寝台に寝かされているフィーメリアさんを見る。
デュナとファルーギアさんは報酬について話し合っていた。
同じようにフィーメリアさんを見つめていたフォルテが顔をあげて
「この人、明日になったら起きるかなぁ……」
と、私の思っていた心配事を口にした。
我々は、フィーメリアさんを見つけ出すことには成功したが、助け出すという意味では不完全だった。
「ちゃんと目覚めるまで見届けたかったよな」
スカイがポツリと漏らす。
彼もまた、私達と同じようにフィーメリアさんを眺めていた。
「皆、今日はとりあえずこのお屋敷に泊めていただく事になったから」
私達の背にデュナのハッキリした声がかかる。
振り返ると、ファルーギアさんが、こちらへ微笑んだ。
「あ、ありがとうございます。お世話になります」
ぺこりとお辞儀をして、フォルテにも礼を促す。
隣でスカイも頭を下げた気配がした。
「朝になってもフィーメリアさんが目覚めない場合、明日は図書館に行くわよ」
「図書館?」
デュナの言葉を思わず繰り返す。
図書館だなんて、もうここしばらく行っていない気がする。
最後に行ったのは確か、フォルテの身元捜しをしていたときだったろうか。
「図書塔とか、書の城とか呼ばれてる、この町のシンボルね」
ザラッカの町の中央付近にある、ちょっとした城のような建物。
いくつかの塔が束ねられたような形のそれが、この町で唯一無二の図書館だった。
学術機関の集まる、そう大きくない町では、あちこちに小さな図書館があってもあまり役に立たないのだろう。
それぞれに違う専門分野に特化した本を求める学生達に磨き上げられて、この町の図書館は、大きく、立派に、この町のシンボルとして十二分に育てられてきた。
他の町から、わざわざこの図書館を頼ってやってくる旅人もいるくらいに。
そういえば、デュナも確かザラッカに来る途中、その図書館に寄りたいと言っていたのだった。
「皆で行くの?」
フォルテがデュナを見上げて問う。ラズベリー色の瞳には、期待が浮かんでいる。
「ええ、フィーメリアさんを目覚めさせる方法を探しにね」
キラリとメガネを光らせて、デュナがニヤリと笑った。
フォルテもニコニコとしている。
どうやら、久しぶりに本を読めるのが嬉しいようだ。
フォルテは、記憶が無くとも字は読めて、色々なお話を読むのも好きだった。
家に居る時には、一日中本を読んでいることもあるほどだ。
外に出る予定の無い雨の日には、黙々と本を読んでいるフォルテの横で、私も、デュナに薦められた魔導書を読み始めてみたりもするのだが、私の場合はいつもすぐに投げ出して、最終的には時間のかかる煮込み料理などに精を出していたりする。
スカイも、はじめは皆の旅アイテムの点検や繕い物をしたりしているのだが、こちらもそれが終わると飽きて、夕方頃には私の料理を手伝っていたりするのだ。
デュナは、いつもと変わらず研究室に篭りっぱなしなわけだが。
「明日まで、どうぞよろしくお願いします」
ファルーギアさんが頭を下げる。
その言葉にハッと現実に戻り、慌てて頭を下げ返す。
『鍵を開けるだけ』のつもりでやって来たお屋敷に、『石を届けるだけ』のつもりで立ち寄ったお屋敷と同じく、お世話になる事になって、私は、とりあえず夕食に毒が盛られないことを祈ることにした。
翌朝。
残念なことに、フィーメリアさんは相変わらず眠っていた。
まあ、それを想定した上で泊めていただいたようなものなので、やはり、と言うべきなのかも知れないが……。
早速、調べ物をしに行こうとするデュナを、ファルーギアさんが引き止める。
どうやら、図書館に行く前に、ブラックブルーの生えていた場所を教えてほしいという事だった。
原因となった実を調べることで、フィーメリアさんを起こす方法がわかるかもしれない。というのは、至極もっともな意見だった。
軽い朝食の後、遺跡を通らず地上から、昨日フィーメリアさんを発見した茂みへと彼を案内する。
瞳を輝かせてブラックブルーを観察しているファルーギアさんの姿に、新しい研究に取りかかる前の、ワクワクしてたまらないデュナの姿が重なる。
研究者というものは皆こうなんだろうか。
心底楽しそうにしている彼を見ていると、フィーメリアさんの事は、研究の口実なのではないかと思えるほどだった。
ブラックブルーの実を抱えたファルーギアさんと共にお屋敷に戻ると、簡単に成分を分析してみると言うので、その結果を待つことになる。
デュナは、興味津々に彼の研究室へ覗きに……もとい、手伝いに行った。
フィーメリアさんを眠りに陥れている原因の物質が特定できれば、図書館に行く必要は無くなるかもしれないな……。
する事が無くなった私とフォルテとスカイの3人は、客間でぼんやりとしていた。
「とっても大きい図書館なんだよね。私の読める本もいっぱいあるのかなぁ」
フォルテは、早く図書館に行きたくてうずうずしているらしく、時々私を見上げては、まだ見ぬ図書塔に思いを馳せている。
これは、分析の結果がどうであれ、連れて行ってあげた方が良さそうだ。
デュナとファルーギアさんは報酬について話し合っていた。
同じようにフィーメリアさんを見つめていたフォルテが顔をあげて
「この人、明日になったら起きるかなぁ……」
と、私の思っていた心配事を口にした。
我々は、フィーメリアさんを見つけ出すことには成功したが、助け出すという意味では不完全だった。
「ちゃんと目覚めるまで見届けたかったよな」
スカイがポツリと漏らす。
彼もまた、私達と同じようにフィーメリアさんを眺めていた。
「皆、今日はとりあえずこのお屋敷に泊めていただく事になったから」
私達の背にデュナのハッキリした声がかかる。
振り返ると、ファルーギアさんが、こちらへ微笑んだ。
「あ、ありがとうございます。お世話になります」
ぺこりとお辞儀をして、フォルテにも礼を促す。
隣でスカイも頭を下げた気配がした。
「朝になってもフィーメリアさんが目覚めない場合、明日は図書館に行くわよ」
「図書館?」
デュナの言葉を思わず繰り返す。
図書館だなんて、もうここしばらく行っていない気がする。
最後に行ったのは確か、フォルテの身元捜しをしていたときだったろうか。
「図書塔とか、書の城とか呼ばれてる、この町のシンボルね」
ザラッカの町の中央付近にある、ちょっとした城のような建物。
いくつかの塔が束ねられたような形のそれが、この町で唯一無二の図書館だった。
学術機関の集まる、そう大きくない町では、あちこちに小さな図書館があってもあまり役に立たないのだろう。
それぞれに違う専門分野に特化した本を求める学生達に磨き上げられて、この町の図書館は、大きく、立派に、この町のシンボルとして十二分に育てられてきた。
他の町から、わざわざこの図書館を頼ってやってくる旅人もいるくらいに。
そういえば、デュナも確かザラッカに来る途中、その図書館に寄りたいと言っていたのだった。
「皆で行くの?」
フォルテがデュナを見上げて問う。ラズベリー色の瞳には、期待が浮かんでいる。
「ええ、フィーメリアさんを目覚めさせる方法を探しにね」
キラリとメガネを光らせて、デュナがニヤリと笑った。
フォルテもニコニコとしている。
どうやら、久しぶりに本を読めるのが嬉しいようだ。
フォルテは、記憶が無くとも字は読めて、色々なお話を読むのも好きだった。
家に居る時には、一日中本を読んでいることもあるほどだ。
外に出る予定の無い雨の日には、黙々と本を読んでいるフォルテの横で、私も、デュナに薦められた魔導書を読み始めてみたりもするのだが、私の場合はいつもすぐに投げ出して、最終的には時間のかかる煮込み料理などに精を出していたりする。
スカイも、はじめは皆の旅アイテムの点検や繕い物をしたりしているのだが、こちらもそれが終わると飽きて、夕方頃には私の料理を手伝っていたりするのだ。
デュナは、いつもと変わらず研究室に篭りっぱなしなわけだが。
「明日まで、どうぞよろしくお願いします」
ファルーギアさんが頭を下げる。
その言葉にハッと現実に戻り、慌てて頭を下げ返す。
『鍵を開けるだけ』のつもりでやって来たお屋敷に、『石を届けるだけ』のつもりで立ち寄ったお屋敷と同じく、お世話になる事になって、私は、とりあえず夕食に毒が盛られないことを祈ることにした。
翌朝。
残念なことに、フィーメリアさんは相変わらず眠っていた。
まあ、それを想定した上で泊めていただいたようなものなので、やはり、と言うべきなのかも知れないが……。
早速、調べ物をしに行こうとするデュナを、ファルーギアさんが引き止める。
どうやら、図書館に行く前に、ブラックブルーの生えていた場所を教えてほしいという事だった。
原因となった実を調べることで、フィーメリアさんを起こす方法がわかるかもしれない。というのは、至極もっともな意見だった。
軽い朝食の後、遺跡を通らず地上から、昨日フィーメリアさんを発見した茂みへと彼を案内する。
瞳を輝かせてブラックブルーを観察しているファルーギアさんの姿に、新しい研究に取りかかる前の、ワクワクしてたまらないデュナの姿が重なる。
研究者というものは皆こうなんだろうか。
心底楽しそうにしている彼を見ていると、フィーメリアさんの事は、研究の口実なのではないかと思えるほどだった。
ブラックブルーの実を抱えたファルーギアさんと共にお屋敷に戻ると、簡単に成分を分析してみると言うので、その結果を待つことになる。
デュナは、興味津々に彼の研究室へ覗きに……もとい、手伝いに行った。
フィーメリアさんを眠りに陥れている原因の物質が特定できれば、図書館に行く必要は無くなるかもしれないな……。
する事が無くなった私とフォルテとスカイの3人は、客間でぼんやりとしていた。
「とっても大きい図書館なんだよね。私の読める本もいっぱいあるのかなぁ」
フォルテは、早く図書館に行きたくてうずうずしているらしく、時々私を見上げては、まだ見ぬ図書塔に思いを馳せている。
これは、分析の結果がどうであれ、連れて行ってあげた方が良さそうだ。