「よし。これでいいわ」
大きな地図を、片手に持てるサイズの紙へと書き写していたデュナが
その手を止めて、満足気に二枚を見比べた。
後ろから覗き込むと、デュナの持つ紙には線と記号がびっしり埋め尽くされている。

「それ……一階から三階まで全部写したの?」
「ええ、念のためね」
あの大きさの地図を簡略化しつつ、罠の位置や注意点は逃さず記入しているその手腕も凄いと思うが、どちらかといえば、その記入の速さに驚かされた。
普段から、手帳に向かってあれこれ計算したりメモしたりしている彼女ならではといったところか。
「また建物内か……」
ちら、とスカイが降ろしている荷物を横目で見るデュナ。
「けど私有地なのよね? 少しくらい壊しちゃってもいいかしら」
小さな呟きが、傍に居た私にはギリギリ聞き取れた。
「爆発物は危ないと思うよ、なんだか、遺跡の中ボロボロだったもん」
私が小声で告げると、デュナは
「ああ、そうね。築四百年は経ってるものね」
と納得した風に答えた。
四百年……って……。
もし、その間一度も手入れがされていないのだとしたら、
私が思って居るよりも、遥かに崩れやすい状態なのではないだろうか。
しかも、遺跡は地中に埋まっているわけである。

崩れたら……生き埋めだよね?

なんだか、昨日よりも危険なクエストになりそうな気がしてきた。
「昨日の事もあるし、回復剤は多めに持って行こうかしら」
薬品を使うのを諦めてか、荷物からごそごそと精神回復剤を引っ張り出すデュナに
ファルーギアさんが声をかけた。
先程まで、部屋を出ていたはずだったが、いつの間に戻ってきたのだろう。
彼は、小柄なせいもあるのかも知れないが、何となく影の薄い人だった。
「あ、遺跡の中では魔法は使えません」
「へ?」
ファルーギアさんの言葉に、デュナが何だか抜けた声を上げる。
「遺跡内部は結界で覆われていて、精霊が入れないようになっているのです」

そういえば。と思い出す。
遺跡に降りる際に、ロッドへ光を集めてくれた精霊が、精神を食べた後すぐに消えてしまったのが気になっていたのだった。
いつもなら、おかわりはないかと、しばらく私の周りをふわふわと漂っていることの多い子だったのに、今日は、私が遺跡の入り口に足を踏み入れた頃には消えてしまっていた。

「えーと……。それは、一切魔法が使えないという……事かしらね」

デュナが引きつりながら聞き返す。
「はい」
ファルーギアさんがにこやかに返事を返すと、デュナが静かに頭を抱えた。
私達は四人パーティーだ。
しかし、実質戦闘員は三人で、パーティー登録証にも、もちろん三人の名前しか書かれていない。
フォルテはまだ十二歳で、職に付くことが出来ないからだった。