私とデュナとスカイ。三人での初めてのクエスト。
デュナとスカイは既に、私が魔法使いになるべく修行をしていた二年間の間もずっと二人パーティーでクエストをこなしていたのだが、私はその日が冒険者としての初めての冒険だった。
簡単にできる物を。と言う事で、家から三十分ほどで着く森に、薬草集めに来ていた。
薬草が必要数集まり、帰ろうかという頃、森の奥から小さな泣き声が聞こえてきた。
途切れ途切れの泣き声を辿って行くと、そこにフォルテが居たのだ。
自分がなぜこの森に居るのかも分からず、今までどこに居たのかも分からず、自分の名前すら思い出せない女の子。
その日は朝からどんよりと重い雲が幾重にもかかっていて、ついに雨が降り出してしまう。
泣き続けるその子を放っておくわけにもいかず、私達はその子を家へ連れ帰った。
デュナがステータスチェックでその子を確認すると、名前と年齢、身長体重以外の全てが空欄だった。
フォーテュネイティ・トリフォリウムという、とても長い名前の女の子を、私達はフォルテと呼ぶことにした。
それからしばらくは、フォルテの身元を調べる為走り回ったり、記憶を何とかして取り戻そうとしていたわけだが……。
……こうして毎日一緒に冒険をしているというのが、その全ての結果だった。
たとえば。
フォルテを拾ったのが私達じゃなかったら、施設に預けようというデュナの意見に私が従っていたら、フォルテは今頃もっと幸せに暮らしていたのかもしれない。
そんなことを、ちょっとした瞬間にいつも思ってしまうのだ。
そう、こんな風に、クエストの過程で不意にフォルテを怯えさせてしまったときなんかに。
背中にそっと手が添えられる。温かさを感じて振り返ると、スカイの、黒いグローブで覆われた腕が見えた。
フォルテは地図を楽しそうに眺めている。
時々「あー、行き止まりだー……」と小さな呟きがもれることから、どうやら、入り口から三階へと降りられるルートを探す遊びをしているようだ。
スカイを見れば、ほんの少し心配そうな顔で私を見つめていた。
私は、今どんな顔をしていたのだろう。
笑顔を見せると、背中に添えられていた手がぽんぽんと軽く背を撫でて離れた。
フォルテに、いつも幸せでいてもらって、なおかつ皆にも心配をかけないで生きていけるようになりたい。
理想と現実の差に、もれそうになるため息を飲み込んだ。
難しいなぁ……。
「あ、すみません。皆さんへの依頼報酬をお支払いしますね」
ファルーギアさんが、今気づいたように慌てて財布を引っ張り出す。
「この後、ファルーギアさんはお一人でフィーメリアさんの探索に行かれるのかしら?」
千ピース札二枚を受け取りながら、デュナが問う。
「いやぁ……それが、ちょっと私では難しい気がするので、また掲示板へ依頼を貼りに行こうかなぁと思ってます……」
一瞬の沈黙。
張り出すとしたら、今度こそ緊急のマークをつけた方がいい。
管理局の人へ声をかければ、手配をしてくれるだろう事を伝えないといけない。
そう確信した時、スカイが思いがけない……いや、予想通りの言葉を口にした。
「俺達でよかったら、すぐにでもフィーメリアさんの探索に行くよ」
「よ、よろしいんですか?」
「うん。フィーメリアさん、心配だもんな」
きっと、スカイの言うところの心配している人は、ファルーギアさんを指しているのだろう。
早く無事な姿を見たいだろう。と、それを見せてやりたいという驕らない気持ちを
真直ぐに感じられる言葉だった。
「ありがとうございます」
見つめ合う二人の間へ、デュナが強引に割り込む。
「追加報酬を相談させていただけるかしら?」
「は、はい。もちろんです。ええと、相場がよく分からなくて……おいくらがよろしいですか?」
「あら、言い値でいいのかしら?」
デュナのメガネがくすっと笑うように煌めく。
「はい……?」
肯定の言葉に疑問の響きが乗る。
笑顔を貼り付けたまま一筋の汗をたらすファルーギアさんを
デュナ以外の全員が哀れみの眼差しで見つめた。
デュナとスカイは既に、私が魔法使いになるべく修行をしていた二年間の間もずっと二人パーティーでクエストをこなしていたのだが、私はその日が冒険者としての初めての冒険だった。
簡単にできる物を。と言う事で、家から三十分ほどで着く森に、薬草集めに来ていた。
薬草が必要数集まり、帰ろうかという頃、森の奥から小さな泣き声が聞こえてきた。
途切れ途切れの泣き声を辿って行くと、そこにフォルテが居たのだ。
自分がなぜこの森に居るのかも分からず、今までどこに居たのかも分からず、自分の名前すら思い出せない女の子。
その日は朝からどんよりと重い雲が幾重にもかかっていて、ついに雨が降り出してしまう。
泣き続けるその子を放っておくわけにもいかず、私達はその子を家へ連れ帰った。
デュナがステータスチェックでその子を確認すると、名前と年齢、身長体重以外の全てが空欄だった。
フォーテュネイティ・トリフォリウムという、とても長い名前の女の子を、私達はフォルテと呼ぶことにした。
それからしばらくは、フォルテの身元を調べる為走り回ったり、記憶を何とかして取り戻そうとしていたわけだが……。
……こうして毎日一緒に冒険をしているというのが、その全ての結果だった。
たとえば。
フォルテを拾ったのが私達じゃなかったら、施設に預けようというデュナの意見に私が従っていたら、フォルテは今頃もっと幸せに暮らしていたのかもしれない。
そんなことを、ちょっとした瞬間にいつも思ってしまうのだ。
そう、こんな風に、クエストの過程で不意にフォルテを怯えさせてしまったときなんかに。
背中にそっと手が添えられる。温かさを感じて振り返ると、スカイの、黒いグローブで覆われた腕が見えた。
フォルテは地図を楽しそうに眺めている。
時々「あー、行き止まりだー……」と小さな呟きがもれることから、どうやら、入り口から三階へと降りられるルートを探す遊びをしているようだ。
スカイを見れば、ほんの少し心配そうな顔で私を見つめていた。
私は、今どんな顔をしていたのだろう。
笑顔を見せると、背中に添えられていた手がぽんぽんと軽く背を撫でて離れた。
フォルテに、いつも幸せでいてもらって、なおかつ皆にも心配をかけないで生きていけるようになりたい。
理想と現実の差に、もれそうになるため息を飲み込んだ。
難しいなぁ……。
「あ、すみません。皆さんへの依頼報酬をお支払いしますね」
ファルーギアさんが、今気づいたように慌てて財布を引っ張り出す。
「この後、ファルーギアさんはお一人でフィーメリアさんの探索に行かれるのかしら?」
千ピース札二枚を受け取りながら、デュナが問う。
「いやぁ……それが、ちょっと私では難しい気がするので、また掲示板へ依頼を貼りに行こうかなぁと思ってます……」
一瞬の沈黙。
張り出すとしたら、今度こそ緊急のマークをつけた方がいい。
管理局の人へ声をかければ、手配をしてくれるだろう事を伝えないといけない。
そう確信した時、スカイが思いがけない……いや、予想通りの言葉を口にした。
「俺達でよかったら、すぐにでもフィーメリアさんの探索に行くよ」
「よ、よろしいんですか?」
「うん。フィーメリアさん、心配だもんな」
きっと、スカイの言うところの心配している人は、ファルーギアさんを指しているのだろう。
早く無事な姿を見たいだろう。と、それを見せてやりたいという驕らない気持ちを
真直ぐに感じられる言葉だった。
「ありがとうございます」
見つめ合う二人の間へ、デュナが強引に割り込む。
「追加報酬を相談させていただけるかしら?」
「は、はい。もちろんです。ええと、相場がよく分からなくて……おいくらがよろしいですか?」
「あら、言い値でいいのかしら?」
デュナのメガネがくすっと笑うように煌めく。
「はい……?」
肯定の言葉に疑問の響きが乗る。
笑顔を貼り付けたまま一筋の汗をたらすファルーギアさんを
デュナ以外の全員が哀れみの眼差しで見つめた。