「赤い雫の力をもって、出でよ我が下僕達よ!!」

つい最近どこかで聞いたような声に、視線で声の主を探すと、部屋の奥にオレンジがかった金髪を後ろでひとつにまとめた女性がいた。
口元にじわりと得意げな笑みをにじませて、腕を組んでふんぞり返っている。

あれは確か、屋敷で最初に私達の相手をしたメイド服の使用人さん……。

と、足元に赤い光の筋が幾重にも走る。
円柱状の建物の床を、同じく円を描くように走る軌跡が、デュナの居る辺りを中心に建物いっぱいに広がる。

魔方陣だ。

それも随分大きな……。

「ラズッ!」
デュナが呼ぶ。その周囲には大気の精霊が集まっている。
私達の居る場所からでは、魔方陣が描きあがるまでにその外に出るのは困難だ。
せめて、デュナが発動させるはずの障壁の範囲内へ、フォルテの手を引いて全力で走る。

「精神を代償に、以上の構成を実行!」
精霊達が一斉に見えない空気の壁を作り上げていく。
それは、何かが出てくるであろう魔方陣に対して、私達の足元を包み込むように、お椀のような形で広がる。
障壁完成から一拍遅れて魔法陣が完成した。
床を走り続けていた軌跡がすべて繋がり、一層輝きを増す。
その赤い光の中から、土くれのようなものがぼこぼこといくつも盛り上がる。
いびつな形の頭部の下から、首、肩……と徐々にそれは人の形を現していく。

「傀儡の召喚……ね」
デュナが苦々しく呟く。
その胸元が赤い光を放っている。
「デュナ……その光まさか」
「ええ、やられたわ」
デュナの周りに水の精霊が顔を出している。攻撃のための魔法を用意しているようだ。
「この石を誰が持っているかなんて、相手には関係なかった。この魔法陣の中に石があれば、それでよかったのよ」
ギリッと、デュナが奥歯を噛み締める音が聞こえてしまう。

「ふふっ、まさしくその通り!!」
壁際で偉そうにしていた召喚術師がその声を張り上げる。
いかにも、勝ち誇ったかのような表情がなんとも癪に障った。
一番近くの地面から顔を出していた土くれ人形が、ついにその上半身を露わにする。

「実行!」
デュナがその姿を指すと、水の精霊がキッとした表情で土人形に突撃した。
ボロボロとなすすべなく崩れる人形。

デュナの肩口に止まっていた三人の水の精霊達が
それぞれ青い髪をなびかせて人形達に突撃してゆく。

一体、二体、三体……。
次々に土に戻る人形達。
「ほら、ラズ、どんどん潰すわよ」
「あ、うんっ」
デュナを見る限り、勢いの強い水で流し潰すのが一番効果的のようだが、私は水のイメージがあまり得意でない。

「精霊さん達にオーダーお願いしますっ」
とりあえず、いつも使っている光球での攻撃を試みる。
「私の心と引き換えに、この杖に力を集めてください」
精霊への呼びかけは口に出す必要はないが、口にする方が私はイメージを明確にしやすい。
力の強さ、光球のサイズを伝えて、杖に光を宿す。
私の左手にしがみついているフォルテの側に、土人形が胸の辺りまで姿を現している。

それに向けて杖を振り、光球の発射を依頼した。

光の精霊は、こちらにニコっと微笑んで、土人形へ思いきり光球を蹴り飛ばすと、私の精神をほんのちょっとかじって消えていく。
光球が土人形に叩き付けられ、霧散する。
と同時に崩れる人形。
効果は十分のようだ。

この光球なら、ほぼ百パーセントの成功率で発動できる。
ホッとしたのもつかの間、またすぐ足元が盛り上がりをみせる。
デュナのほうを見れば、ざっと十五体ほどは倒したのだろうか、床には崩れ落ちた土くれが広がっている。
しかし、いまだ赤い光を放つ魔方陣からは、次々と新しい人形が生まれていた。