梶原が加奈子の隣の席に座って文化祭の思い出を喋っている。それを聞きながら、加奈子は明日に思いを馳せていた。
(梶原はまだ煮え切らない感じだけど、もう卒業なんだから、絶対告白した方が梶原の為になるのよ……)
加奈子が梶原を見ながらそう思っていると、梶原がお前、大学に行っても気を付けろよ、と言ってきた。
「度胸があるのは認めるけど、自分が女だってことを忘れると、学祭で絡まれたようなことがまた起きるからな? 女の子は時々しおらしいくらいの方が、安全なんだよ」
もっともらしい忠告は、しかし加奈子の心に届かなかった。
「由佳ならあんなことしないでしょ。心配する相手を間違えてない?」
加奈子が言うと、梶原はぐっと黙った。そして拗ねたように、心配しちゃいけないのかよ、と口を尖らせて言った。
「心配は嬉しいけどね。でも性分は直せないし、それにあんたが心配する相手はもっと別に居るんだってことを自覚した方が良いわ」
加奈子が言うと、なんだよそれ……、と梶原が拗ねた様子で椅子の上で胡坐をかいた。全く分かってない、この男。明日を過ぎたら、由佳と会えなくなるんだぞ。その辺の危機感とか、こいつにはないのか?
(……私だったら……、…………そうか、言えないか……)
心の奥で、ひっそりと思ってみる。梶原もまた、自信がなく一歩が踏み出せないのかもしれない……。