「あれ以来、あんたの一方的な脅しに怯えなくて良くなって、私の精神状態はかなり良くなったわ」
過去を思い出して加奈子が言うと、梶原はがっくりと項垂れた。
「お前が悪いんだろ……っ! 俺の神の名前を間違えたんだから……っ!!」
今では梶原との会話に平気で『神』とか『推し』とかいう言葉が出てくる。いやあ、どんな崇高対象でも、それを持つ人とは分かり合えるから平和だ。加奈子はしみじみとあの事件以来の心の平穏を思い出して微笑んだ。
「いいじゃない。尊ぶ相手が居るってことは、心に活気を与えてくれるわ。私は梶原の神をけなしたりしないし」
「それはそうだけどさ……」
ちょっと不満げな梶原がかわいい。表向きの顔の梶原よりも、こうして加奈子と喋っているときにだけ見せるいじけた顔とか、推しに熱くなっている顔とか、結構好きだ。まあ、そんなこと、言ってやらないけど。だって梶原には好きな子が居るんだから。
そのことを考えるとどうしてピッシブに居るカティルカやソワリが霞んでしまうんだろう。加奈子は直視したくない自分の気持ちに、また見ぬ振りをした。