「お前、馬鹿かっ!」

校門から引き摺られてグラウンドをぐるっと反対に回り込んだフェンスの裏で、尾上は叫んだ。

「なんだよ、なんだよ! 尾上があんなの欲しいって言ってたから、俺、ゲーセンで投資してきたのに、なんで貰ってくれないんだよっ」
「貰えるか! あんなの!」

嘆く笠寺に再び怒鳴った。本当にコイツは鈍いんだ。

「ひでぇぞ、尾上! 俺、ホントに記念に残るものをやりたくって……!」
「だからって、本人に聞くか!? 普通!」
「なんだよ、本人って!」

ほら、やっぱり鈍い。大きなため息をついて、仕方なしに尾上は笠寺に説明してやった。

「あのなぁ、笠寺。俺が見たこともないキーホルダーのことを、詳細に説明できるわけ、ないだろ?」
「え……? あ……、言われてみればそうだな。じゃあ、どっかで竹内のキーホルダー、見かけたんだ?」

笠寺の返答に、これまた深いため息が出てしまう。コイツは本当に悪気があった訳じゃないんだ。そんなことは十分すぎるほどに分かっている。だけど、分かっているからって言って、あれを受け取れるほど、自分はあつかましく出来ていないのだ。

「……そういうことになるな。人のもの、盗み見るなんていいことじゃないだろ? 竹内さんもいい気はしないと思うし、だからあれは返した」
「……そうなんだ…。……そんなもんかなあ?」
「そーゆーもんだ。知らない、しかも男子にじろじろ自分の持ち物見られてたら、いい気はしないだろ、普通」
「……じろじろ見てたのか?」

笠寺の突っ込みに、うっと言葉に詰まる。言葉の例えのことだけど、実際、じろじろ見てしまっていたかもしれない。

「……そんなに気に入ってたんだったら、竹内はそんなこと気にしないと思うし、返すことなかったと思うけど……」
「俺が気にする」

笠寺はどうしても自分にあのキーホルダーを渡したいようだった。だけど、絶対に受け取れない。と言うか、もう竹内小春に会うことだって、出来ない。

「兎に角っ! あれはもう返した。物なんかなくても、俺はお前のこと忘れないと思うし、それで良いんだろっ!?」
「……えー、でも、なんか記念に残したい気もすんだけどなあ……。尾上、過去は振り返らないからさぁ……」
「そんなの、女子じゃないんだから、いらない! お前、これだけ俺に言わせてまだ足りないのか!」

恨みがましそうにちろりと見てくる笠寺に噛み付くように言う。まったく、恥ずかしいったらありゃしない。

尾上の言葉に、笠寺の顔が途端に綻ぶ。大きな体でぎゅっと抱きつかれて、思わずぐえっと声が出てしまった。

「おのうえー! お前っていいヤツだよなー!」
「うるさい、笠寺! 放せ、放せっ!」

声を張り上げて抗議したけど、体の大きな笠寺は聞いちゃくれなかった。