笠寺には卒業までにどうしてもしておきたいことがあったのだと言う。

「親友にさ、なんか覚えていてもらえるようなプレゼントがしたかったんだ」

高校に入って友達になったというその親友さんの二月の誕生日プレゼントに、高校を卒業しても自分のことを覚えていてもらえるような、そんなものを贈りたかったのだそうだ。

尾上という名前のその笠寺の親友は、笠寺が太陽のような笑顔を浮かべるのに対して、どちらかというと夜空の月のようにすました表情で校内を歩いているところを見かけていた。

「……それが、こんなキーホルダーなんですか?」
「うーん……、もうそれしか思い当たらなくてさあ……」

最近、家の鍵につけているキーホルダーが壊れたといった尾上に、笠寺は丁度良いから自分がいいものを見繕ってあげると約束したそうなのだ。

「……もっと、記念に残りそうなものって、ありますよね……?」
「うん。だけど、あいつ物欲ないし、余分なものも嫌うから、だったら必需品がいいかなと思って」

尾上のリクエストを聞くと、どうもその色形、更にはリボンの柄までが、小春が鞄につけているキーホルダーに似ているような気がするんだそうだ。

「えーと……、でもおんなじのを取ったら、私とおそろいになりますよ…? リボンも、其処の手芸屋さんで買えますけど」
「あ、それは、竹内がイヤだったら、リボンの柄とか違ってもいいから」

兎に角、尾上のリクエストに応えたい笠寺は、頼む! と頭を下げてくる。想いを寄せる先輩にそんなに何度も頭を下げられてイヤだなんて言えない小春は、早紀も一緒にゲームコーナーへ向かうことにした。

学校から、駅を挟んで反対側にあるちょっと寂れた風のショッピングセンター。一階フロアの隅っこに、ゲームコーナーが設えてあった。数人の子供が遊具に乗って遊んでいて、他にも学生が一組居た。近所の人が買い物に来るようなショッピングセンターだから、子供用の遊具のほうが多くて、ゲーム機は十台もないほどだった。

「ここに、こんなのあったのか……」

そう言って、笠寺は珍しいものを見るように辺りを見回していた。小春と早紀は、いつものゲーム機の前に鞄を置いて、そうして振り返って笠寺を呼んだ。

「先輩。……これですよ? こんなのでホントにいいんですか?」

キャッチャーの中には丸いケースに入った色々な雑貨が積んである。一セット二百円で、つまり、上手くしたら二百円の代物を、笠寺は親友にプレゼントであげようというのだろうか。

「うん、いいよ、いいよ。でも、一応試しに俺がやってみてもいいか?」
「勿論ですよ」
「私たちが位置教えます」

そう言って、小春と早紀はキャッチャーのケースを二手に分かれると、まずお目当てのキーホルダーを探した。しかし、生憎拾いやすいところには見当たらない。

「先輩。二百円では上手くいくか分からないんで、一応四百円賭けのつもりでいてくださいね」
「オッケー、分かった」

笠寺がそう言って硬貨を入れてボタンを押す。アームが伸びて、小春と早紀は笠寺を誘導した。

「もーちょっと右だと思います」
「ちょっとずつ、こっちに伸ばして……。ああっ、来すぎたぁ」

悪戦苦闘したのに、結局目的のカプセルが取れなかった笠寺は、「よろしく頼むわ」と言って、小春にバトンタッチをしてきた。小春も一回の挑戦では取れなくて、結局四枚の硬貨をつぎ込むことになったけど、なんとか目的のカプセルは取り出し口に出てきた。コロンと丸いカプセルの中に、小春とお揃いのキーホルダー。

そして次は、その向かいにある手芸屋さんだ。小春のキーホルダーに付けてあるのと同じチェックのリボンを買って、裁縫セットのハサミで短く切ると、キーホルダーのクマにリボンを結ぶ。出来上がったクマのキーホルダーを、笠寺は嬉しそうに見た。

「これでホントにいいんですか?」
「うん。サンキュ」

そう言って、これはお礼、とポケットからチョコレートの箱を取り出して渡してくれた。でも、小春たちはゲームコーナーで遊ばせて貰っていたのであって、そんなの申し訳ない。

「いいですよ。それより先輩が食べてください。勉強疲れに甘いもの」
「いや。本当にこれが欲しかったから、助かってるんだ。リボンまで結んでもらって、言うことないんだよ。な、受け取って欲しい」

笠寺はそう言うとチョコレートの箱を小春と早紀にぐいぐいと押し付けてきた。そこまでされて受け取らないのも失礼だろうと、二人は箱を受け取った。

「ありがとうございます」
「こちらこそ、本当にありがと」

笠寺が本当に嬉しそうに言うものだから、小春たちまで嬉しくなる。彼の親友さんに対する気持ちが、ちゃんと伝わるといいなと思った。

チョコレートは早紀と半分こした。