抜け落ちたみたいに、記憶の中に空白が生まれていく。



「星、星が消せる、って聞いて、……聞い、たの、誰、に……?」



手の隙間からこぼれていく砂を、必死につかもうとしているみたいだ。

目を閉じる。確かにそこに、誰かの影がある。
名前を呼ぼうと口を開く。



「なんで、誰、名前、知ってるはずなのに……っ」



ひゅ、と空気がのどを抜ける。

その字列の紡ぎ方を、この口は確かに知っているはずなのに。
動かない、どう動かせばいいのかわからない。



「なんで、なんでっ……」



震えた手を、ぎゅっと握りしめる。


手の中にあった何かが、透き通っていくのが分かった。

何?私は一体、何を持っていたの?


認識できないほど、その形は存在を失っていって。



「……あれ……」



汗ばんだ手のひらが、空気に触れてひんやりとした。

そこにはなぜか、爪痕がくっきりと残っている。


変な話だ。



「……なんで私、泣いてるんだろう」



───何も、持っていないのに。