『緊急速報です!!先日分裂を起こしていた、地球の××光年先に位置する△△星ですが、本日MASAが緊急会見を開いた際に「このままの軌道ではアジアを中心とした1,723,000㎢圏内に墜落する」という声明を発表しました!!皆さんただちに避難してください。繰り返します───』



スマホのアラート、教室の液晶テレビ、校内の緊急アナウンス。
ありとあらゆる情報伝達ツールが、見たこともないくらいの爆音や鬼気迫る声を響かせる。

落ち着いて、となだめる先生の声すら、上ずっていて指示がよく聞き取れない。


「なあこれどういうこと!?」

「嘘だろ!?地球が無くなるってことかよ!」

「やだよ、お母さん……!!!」

「ねえちょっと止まんないで早くどいて!!!」



泣き叫ぶ声や、他人を急かす怒声が響き渡って。

みんな、みんな、普通ではなくなっていく。



「───セナ、」



考えるより早くその名前を口にした。
見回せばセナもこっちに近寄ってきていて、すぐに視線がかち合う。



「……セ、ナ?」


歩み寄ってくるきみに、思わず息を飲んだ。


どうして。

どうしてそんなに、落ち着いた表情をしているの?



「……大丈夫だよ、スミ」



そう告げて、まるで全部を知っていたみたいに。

私の頬を、両手でやさしく包み込む。



「絶対に、スミを守るよ」

「───」



あの、笑顔だ。

消えてしまいそうなくらいに優しい、あの笑顔。
何か、覚悟を決めてしまったみたいな、あの笑い方。



「……セナ。なにか、知ってるの?」

「……スミ、数学のテストは、公式を覚えたもの勝ちだよ。スミは好きなことならいくらでも覚えられるから、やればできるって俺が保証する」

「なんで今、それ言うの……。セナがこれからも、見ててくれるでしょ?」

「小学生の頃、女顔で舐められていじめられてた俺を、庇ってくれてありがとう。『これからの時代は女顔が天下を取るの!』って決め台詞は正直めちゃくちゃ意味不明だったけど、すごく心強かったし救われた」

「そこ、掘り返さなくていいし、待って、セナ、今度ぜんぶ聞くから質問に答えて、」

「俺、結構面倒くさいやつだったのに、ずっと一緒にいてくれてありがとう。ガチャガチャで一生懸命当てた星柄のストラップ、ワガママ言って奪っちゃってごめんね」

「そんなの、これからもいくらでもあげるから、セナ……っ」



お願い、お願い。

ごめんもありがとうも、言わなくていいから。


何が起こっているのか分からない中で、確証もなく、今目の前にいるきみに縋る。



「……ごめん。俺も下手だね、誤魔化すの」



そう零したセナの親指が、そっと私の目尻を拭った。

その温度がひどく暖かくて、初めて、じぶんが泣いていたのだと気が付く。


ずっとそうだった。

風邪を引いたときは、セナの指先の冷たさがそれを教えてくれた。
苦しくて心が凍ったとき、セナの言葉の暖かさが、初めて弱音を吐かせてくれた。

ずっとそうだったの。


これからも、そうじゃないの?



「……セナは、どこかに行っちゃうの?」

「……スミ」

「セナが、いない世界なんて、やだ」

「うん」



きみが頷く。

どこまでも優しく、暖かく。



「……俺もだよ」



そう言って見せる、透明で意志の強い笑顔。
幾度か見た、その笑い方。


ただ、ひとつだけ、今までと違ったのは。



「俺もそうだったんだよ、スミ」



───その言葉を最後に、きみは本当に、消えてしまったということ。